あれから数ヶ月が経った。あの日、あたしは親にこっ酷く叱られた。それで、さらにあたしは言い返して、なんでこんな子に育ったのかしらと罵られ、開き直り、そりゃあもう酷いもんだった。泣くわ喚くわ叫ぶわで近所の迷惑も考えろって話。隣のおばさんもあまりに煩すぎて乗り込んできたりね。最終的には理解してもらえたのだけれど、いまいち「わかってくれた」のかはよくわからない。やっぱり人間というのはそう簡単には変われない。自分の持っている理屈を他人の言うことで変えられるはずがない。相変わらず、塾へ行きなさい勉強しなさいと言われる。一番をとらなきゃ繭がピクピク動いて、それにビクビク怯える日々は続く。それでも、一応あたしの持っている理屈というものは判ってくれたのだと思う。自分のものは変えられなくても相手のものは理解する能力くらいは持っていたようだ。(とか言うとまた親を馬鹿にして、と怒られるので口には出さないけど) 家のことがちゃんと終わったあと、一度だけ夜の公園に顔を出したことがある。だけど、あの公園はすでに工事が始まっていて入ることが出来なくなっていた。そもそも、工事が決まっていてから始まるのが長すぎやしないか、と思ったのも真実。聞いたところによると、常陸院ってとこの人が先延ばしにするように言ったとか言ってないとか。まあ、その辺の真実はよくわからないということで。特に興味ないし。 それで、あたしは高校が決まった。近所の公立高校だ。桜蘭は無理だ!諦めなければいけるわ!無理だ!という言い合いをして勝った結果がこれである。諦めなければなんとかなる、なんて思わない。そもそもあそこは次元が違うのだ。弱気な発言かもしれないが、あたしはあたしのレベルを判っている。あたしが一生懸命勉強して、必死になって入れる程度のレベルは最低でもその公立高校でしかない。少し無理矢理だったが、それでなんとか納得してもらうことも出来た。お母さんは不服そうな顔をしていけれど、それはそれでよしとしよう。 あたしは、今。もしかしたらあたしが受けたかもしれない桜蘭の前にいる。通っているかもしれない、なーんて愚かなことは一瞬たりとも考えていない。実はあの頃、少しだけ憧れていた時期もあった。でもあたしはあたしのレベルを知っていたから…と言う話はもうなしにしておこう。所詮、憧れは憧れ。時計塔を見上げるだけで首が痛くなるような大きな建物に毎日通ってたら、首がもげるっつの。ということで、たまに遠回りをして外から桜蘭を見ることがあたしの日課になっている。 「…でか」 近所の公立校の何倍も。全く、よくこんなデカイもの作る気になれるよね。こんなとこ、庶民の通う学校じゃないっつの。藤岡先輩もよくこんなところを受ける気になったな。お金持ちの中に庶民がぽつんと一人。これほど心細いことはないだろう。…いや、藤岡先輩は結構図太い性格だから案外上手くやってるかも。そう思うとぷっと笑いが込み上げてくる。藤岡先輩には悪いけど、あたし此処に通えない頭でよかったわ。 「ああ、そういえばあんたの名前。まだ聞いてなかったよね」 「そうだっけ?」 「そーよ。あたしはね、ってーの」 そして、隣には夜の公園で出逢ったこの人もいる。如何いう経路で再会したかは、内緒だ。(あたしとこいつだけの、)今はもう、たぶん公園すらも必要ない。 「僕は常陸院馨、だよ」 「そりゃまた金持ちっぽい難しいお名前で」 「庶民の分際で煩いよ」 隣にいる。 |