「あたしね、来年桜蘭受けることになってんの」 「…え?」 「知ってるでしょ、桜蘭学院」 あたしの家はね、お母さんが箱入り娘でお父さんが弁護士で、それでもすっごく普通の家なの。桜蘭みたいなお金持ち学校とは似合わないようなすごく普通の家庭。あたしはそれでも構わないんだけど、お母さんはプライドが高くて。家は金持ちでなくても、せめて他で何かとてつもなく優れていないとすぐ怒るんだよ。小学校の時はね、いい点とるたびに褒められてそれはすごく嬉しかったの。だけど、そのうち「いい点」ってだけじゃ満足しなくなっちゃって、いつのまにか「100点をとりなさい」って命令されるようになってた。中学に入ったら最初は10番台、それから一桁、最終的には常に1番をキープ。無茶言うなよって話じゃない?いくらお父さんが頭良くったってさ、お母さんの頭はそんな言うほどじゃなかったわけだし。お父さんの能力を7割くらい持っていても、残り3割はお母さんから受け継いだものなんだからさ、自分の能力くらいわかるでしょって言いたくなるよ。 受験だってそうだ。最初は「県内のトップ校にいければ充分よ」とかなんとか言ってたくせに、今年うちの学校から桜蘭に合格した生徒がいるって知ったら真っ先にそっちにしなさいとか朝令暮改ってまさにこういうことだよね。そんな人間に対してあたしは何を信用しろって言うの?だから、だから、 「普段と違うことがしたかったの」 「逃げ出して星を見上げたり?」 「…皮肉だよねえ。あの公園、昔あの人に連れてこられた場所なのにさ」 あたしが口元を曲げて笑う。あの頃の、お母さんの言葉を頑なに信じて何にでも従っていたあたしはどれほど滑稽な人間だったのだろう。でも今のあたしだってそんなに変わらない。ただ親の言うことに反抗して抵抗して逃げ出しただけ、一度も戦おうとだなんてしていない。でも、あたしにはそれでいいんだ。そうして今までにない生活を送れるんだったら、それで。「ねえ、じゃあ行かない?」彼はあたしの手をそっと包んで、そういった。あたしの苦笑いとは全く違う、自然とした微笑み。 「…何処に?」 「何処でもいいよ。…逃げたいんでしょ?」 あたしの手を勝手に掴んで自分勝手に歩き出す。あたしは引っ張られるがままに連れ去られた。逃げたい、のは確かだけどこの結果は、あたしの望んでいたことなのだろうか。あたしは無気力で、無抵抗で、そう、たぶん今のように道を歩んできた。全てにおいて、全部全部人任せ。だから、あたしは、 |