周りを見渡すと高そうなドレスを着たおばさんやら見たことのないような豪華料理やらで埋め尽くされてる。上を見上げれば、あたしが今まで見てきた電球とは比じゃない大きさのシャンデリア。…なんか、ここ、あたしには場違いじゃない?いくら(無理矢理着替えさせられた)高そうなドレスを着てたって、ちょっとした仕草やらマナーやらであたしが一般人かどうかくらい丸わかりだ!…というか、あれ?そういえばさっきのあの人は何処?てゆーか、こんなところにつれてくるくらい(てゆーか、双子のメイドがいるんだからそうなんだろうけど)お金持ちなんだろうか。…なんだか、無性に腹が立ってきた。此処にある料理、がつがつ食ってやろうか。…あたしの品位に関わることなのでやめておく。 「あ、いたいた」 「…一体何なの?行き成りこんなとこ連れてきて」 「いいだろ別に。君も如何せ行くところなかったんだし」 「そりゃあ、そうだけど」 でもこんな居心地の悪いパーティーに出席するくらいだったら、もっとあの公園で想い出に浸って空を見上げていたかった。それが本音だけど、目の前でニコニコするこの人を見ているとなんだかいい出せなくて、「だけど、…何?」と言い返されても「なんでもない」と答えることしか出来なかった。だいたい、このパーティーにあたしが出席する意味なんてあるのだろうか。あたしはただの一般家庭の子供で、無関係ではないのだろうか。 「ほら早く食べないとなくなっちゃうよ。がこれから食べられないようなものがたくさん出てるんだし、折角だから食べれば?」 「なにそれ、嫌味?どうせあたしは一般家庭のこど……、待って」 「ん、何?」 「なんであんた、あたしの名前知ってるの?」 まさか、そんなはず、ない。だって、あの人は実の肉親よりもずっとずっとあたしを理解していて、あたしが家に帰りたくないのもその理由を聞かないのもその証拠で。だからこそ、あたしはお互いを詮索しないこの人を信頼したのに、この人はあたしの名前を知ってる。あたしを知ってる。それは調べたということで…暗黙のルールを、破った。それともルールすらあることに気付かなかった?そうだ、双子のメイドもあたしのことを知っていた。(そこで気付くべきだった!)それから、詮索しないというあたしの中の決定事項は、こいつが此処に連れてきた時点で、既に破られている。あたしはこの人のことを、少しでも知ってしまった。 「んなの、調べたからに決まってんじゃん」 「……」 あっさり、答えた。答えたよこの人は。あたしは、この人を買いかぶりすぎていた。いや、寧ろ人間を買いかぶっていたのかもしれない。だってこの人だって人間だもの、あたしが言葉に出さなきゃわからなかったことだってたくさんあっただろうからルールを破った。ああ、あたしは馬鹿だ、お母さん以上に。こんな簡単に引っ張り上げられて喜んで、そして簡単なことに絶望する。(あたしは、) 「…かえる」 「え?」 「帰るから。…帰らないけど、帰る」 「ちょっ、帰るって何処に?帰る場所なんかないだろ」 「ない。けど、それだったら適当な場所で寝泊りする」 「それなら僕ン家で――」 「それが嫌だって言ってるの、判らない!?」 あたしを引きとめようと掴んだ腕を無理矢理振り払ったら、彼の持っていたグラスが音を立てて割れ落ちた。それとあたしの大声もこの会場内ではよく響いて、周りがどよめいているのが判る。「どちらのご子息かしら?」「随分乱暴な」「常陸院の坊ちゃまになんてことを」そんな言葉よりも、あたしはその音を聞きつけて走ってきたらしい少年の方に、気をとられていた。 「光、何やって――…え」 「…おなじ、かお…?」 暗黙のルールを破っていたのは、あたしの方だったのだ。 |