抜け出すことはあまりも簡単すぎて、あたしは拍子抜けだった。馬鹿じゃないの、外に出さないっていうなら錠でもつけておけばよかったのに。まぁ、つけてくれなくてよかったけど。あたしは辿りついた公園のベンチに寝転がる。まだ夕方だと言うのに其処には誰もいなかった。当然か、もうすぐ工事でなくなるもんね。なくなるならわざわざこんなところこないよね。ベンチの上には影となる屋根がある。だから夜でも此処から上は見えないんだ。だけど今は星は見えないから、此処でいい。夜空を見上げてられる時間を作れるように今は寝てしまおう。




「なに、してんの」




目を瞑ってからすぐ、声が聞こえてあたしは飛び起きる。(母の声で毎朝起きているあたしの条件反射だ)あ、あれ、さっきまで夕方じゃなかったっけ?もう周りは真っ暗で、電灯の光で僅かに人の顔が見える。はっきり映るのは昨日もあったあたしの非日常を変えてくれる人だった。もしかして、少し目を瞑っただけで熟睡してしまったのだろうか。軽く、2〜3時間くらいか。今頃家ではあたしがいないことを知った母が驚き、慌てふためいているだろう。なんていい光景なのだろう。あの人も非日常の素晴らしさを知るがいい。




「何してんの、って聞いてんの。僕はそんなに気が長くないんだからね」
「あ、い、家出…」




昨日会った時とは随分雰囲気が変わったような。少し刺々しい。でも、人には虫の居所が悪い日もある。あたしはあまり気にすることもなく流すことにした。「ふーん。ほんとなんだね」「何が?」「なんでもないよ」人当たりの良さそうな笑みに違和感と嫌悪感を憶える。




「…あんたさ、なんかあったの?」
「別に、なにも」
「また兄妹と喧嘩でもしたの?」
「…またって何?」




え、だってあんたが言ったんじゃん。初めて会った時に、兄妹と喧嘩したって。仲直りの際にはチューまでしたって。…嘘だったけど。…いや、まさか兄妹がいるってこと自体が嘘だとか言い出すわけじゃないよね?




「馨のやつ、んなこと言ってたのかよ…」
「え?」
「こっちのハナシ。それよりあんた、今暇でしょ?付き合ってよ」
「は?」




横暴だと、思う。気付いたら既に腕を引っ張られていて、強制的に公園からは脱出させられて、公園の近くにある大きなビルに連れ込まれる。…周りを見ると高そうなツボやら綺麗な窓なんてものが目に入ってきて、いかにも、という感じの雰囲気が流れ込んでいる。そうして奴は、あたしを何処かのよくわからない部屋に放り込み、「その子よろしく」と一言、その部屋にいた双子のメイド(うわ、初めてみた…)(双子も、メイドも)に頼んで出て行った。そうしてから、唖然としているあたしの横で、「「さぁ、様。着替えましょう」」と、ユニゾンが響く。「え?」気付いた頃には、もう遅かった。


…あれ?なんでこの双子は、あたしの名前を知っているのだろう。