「わたしね、死ぬなら、すきなひとの腕の中がいいって思うんです」

ソファーに寝転がった静雄さんに跨って、わたしはうっとりしながらその綺麗な髪をさらりと撫でた。サングラスとつまんで取り去ってしまうと、裸になった目がわたしを貫く。きゅううんと胸を鳴らしながら、わたしはそのサングラスをテーブルの上に置いた。この人にこんな風に見つめられるだけで、わたしはくらくらしてしまう。この人に愛して愛して愛してもらえたら、どれだけ幸せなのだろう。たくさん、愛してほしい。わたしはわたしが愛した人を永遠に好きでいたい。生きている間も死んでからもずっとずっと縛られたい。怒りや憎しみじゃなくて、愛情で、静雄さんに殺されたい。

「だからね、静雄さん。わたしのこと、全力でぎゅうってしてください」

世界で一番狂気的で凶器的で最上級の独占欲という愛情がほしい。死ぬ直前まであなたのことで頭をいっぱいにしてしまいたい。本当はどんな方法でもよかったの。首を絞めても、このソファーを投げつけるでも、頭突きでも死ねるならそれでも構わない。けれど、一番愛している人の腕によって抱き殺されるのは、他のどんな方法よりもずっとずっと素敵なことだと思うのよ。静雄さんがわたしを抱きしめるという行為が苦痛であればあるほど、わたしの欲望が膨らむの。その苦痛さえも乗り越えて抱きしめてもらえたら、わたしにとって一番甘美な思い出になるから。それが最期の記憶になれるなら、いくらだって望んでやる。それを求めて、わたしは何度も何度も呼びかける。

「……しねえ」

静雄さんは顔を悲痛に歪ませて、気まずそうに視線を逸らす。ぶるぶると震える手がわたしに触れるか触れないか直前のところで停止して、それから諦めたようにだらんと腕を落とした。いい加減に離れろ、と疲れた様子の静雄さんが呟く。矛盾してるようだけど、酷いこと言ってる自覚はあっても、わたしは静雄さんにそんな顔してほしくないと思うのだ。なのに有り余る欲求をわたしは放置できない。愛が足りない愛が足りないと脳が叫ぶ。愛がほしいほしいと乾いた胸が願ってる。

「…や、です。静雄さん。抱きしめて」
「死ぬぞ」
「本望です」

そっと、細くて長いその腕が伸ばされて、わたしの背中に回る。それに合わせるようにわたしは体を倒した。まるで割れ物でも扱うような酷く優しい仕草に、胸が疼く。何度言ったって、静雄さんはわたしの愛には応えてくれない。もっと強くと強請っても、それを無視して、触れるか触れないかわからないくらいの距離で抱きしめるのだ。優しくて臆病で愛おしいこの猛獣は、暴力が嫌いで、傷つけたくないから、どれだけ力を持っていてもしないのだ。できないのだ。でも、わたしの中の衝動は、触れるたび、好きになるたび、大きく膨れ上がって、どんなに拒まれても他の人に目移り出来ないほどに、この人に向かっていく。どうしようもないほどに。それを知っていて、それでも静雄さんは拒み続けるのだ。わたしの愛を。

「むう、ひどいです、静雄さん」
「……どっちが」

怯えながら、柔らかく、優しく触れるのは、彼の抱く、わたしのとは全く違う愛情だった。




殺 て



マ    !
イ  ン
ダ リ


(2011/10/02)(title by ROMEA)