「誕生日、おめでと」 そう言って家で作ってきたカップケーキを差し出すと、シズくんは眼を丸くしてこちらを凝視した。それから少し時間をおいてから、「これ、俺にですか」と躊躇いがちに確認をする。当たり前でしょ、いらないの?シズくんがあまりに酷いこというものだからちょっぴり拗ねてみると、彼は「いります!」と急いでそのケーキを奪うように受け取った。随分と馴染んだけれど、未だに似合うことのない金髪を揺らして、照れくさそうに頬をかきながら「ありがとうございます」と言う姿はなんとも可愛らしい。 「昨日ね、田中くんにきいて初めて知ったの。だから大したものは作れなかったんだけど」 「…あの、これ、もしかしてせんぱいの手作り、ですか」 「そうだよ」 もうちょっとちゃんとしたものを作ってあげたかったのだけれど、中学生の財力で急いで用意できるものなんてこれが限界で。シズくんは甘いものが好きだって田中くんにきいたから、どうかなと思ったわけですが。 「なんか…食べんのもったいねぇ…」 「いや、食べてよ。不味くはないと思うから。……多分」 折角作ったんだから、できればお早めに食べていただきたい。それもそうか、と謎の納得をしたシズくんはその場で袋を開けると中からケーキを取り出した。え、あ、早めにとはいったけど今ですか。私は、正直家庭科の時間かバレンタイン程度にしか料理を経験していないもので、自信があるかないかと問われれば、ないといっていい実力なのである。一応味見用に作った方はそれなりにうまく出来てはいたけれど、シズくんの口に合うかはわからなくて。それでも手作りという選択肢を選んだのは、まあ、それは、その、単なる乙女心であって。食べるのもったいないとか言っていたくせに、シズくんは躊躇いもなくばくばくとわたしの自信なしケーキを口に含んでいく。 「……甘ぇ」 「えっ。砂糖多すぎた?不味かったら捨てていいよ」 「ん、いや、……甘いけど、俺、これ好き」 っす。と、照れたように顔をそむけて、シズくんは続けて残りのケーキを口にする。そうしてケーキを綺麗に平らげてしまうと、美味かったです、とぎこちなくこちらに眼を向け、頬を少しだけ赤に染めた。その柔らかな笑みに喉を鳴らして、今度はわたしが視線を逸らす。空になった指同士を絡ませながら、わたしはあがった体温を下げるように空気を吐き出す。喋らないと言葉が頭の中でぐるぐると迂回しそう。 「わたし、いつかホールケーキ作れるよう、がんばる」 「? …頑張ってください?」 その時隣で食べてくれるのは、あなただといい。
「さん。クリームついてる」 「え、何処?」 近くにあったティッシュに手を伸ばそうとしたら、二の腕を突然掴まれてそのまま引き寄せられて、生温かい何かが唇の端をぬぐった。声を出す間もなく「甘ぇ、」とわたしの口元で低く囁く。あまりに近くて、息があたって、わたしはどう答えればいいかも、わからない。見慣れてしまったのに相変わらず似合わない金髪があまりに近くで揺れるので焦点が合わないまま、余った手が宙で行き場をなくした。ケーキの甘ったるい香りと、煙草のほろ苦さと、ほんのりと彼の匂いが混ざる。 「さ、ささとう、おおすぎたかな」 「ん、いや。甘いけど、好きだ」 あれ、これちょっとデジャヴ。なんて思った頃には大きくなった野獣がもう一度、がぶり。 (2011/01/28)(Happy Birthday!!) |