指輪をお互いの手にはめると、なんだか永遠を手に入れたようで少しだけ安心した。だけど本当はいつまでも一緒にいられるわけがなくて、きっとお互いに傷つけるだけだ。けれど、今はとても離れがたいのだ。きらきらと輝く白い衣装は、そんな風に道を踏み外そうとしている私には、綺麗過ぎて、それを纏っていることに酷く罪悪感を感じる。アーサーは指輪をつけた私の手を、自分の手の平に乗せたまま、そっと微笑んだ。

「よく、似合ってる」

そういうアーサーも、よく似合う白い衣装を身に包んでいる。私たち、お揃いね。ぎこちない笑顔が、今もアーサーの中を罪悪が巡っていることをよく示していた。本当に素直な人ね。言葉こそは天邪鬼になってしまうことが多いけれど、本当に嘘を吐くことはできない人。そういう不器用さが、堪らなく愛しく思う。

「アーサー」
「…ん」
「私は、いつまでも貴方の隣にいられないのは、わかっているのよ」
「……」
「だから、いつか貴方を置いて先に死んでしまう私を、許してくれる?」

それから、貴方のために家族も友達も、私に関わる全ての人を裏切ってしまう私を。他の誰に許されなくても、貴方にだけは許してほしい。私とアーサーを遮るベールを、そっとめくった。色づいた世界の中で、アーサーは泣きそうな顔をして、私の頬に手のひらを添えた。私と何も変わらない、人の手なのに、どうして私と貴方は同じものじゃないのかな。いつまでも一緒にいられる存在じゃないのかな。

「許さない」
「…!」
「他の誰が許しても、俺だけは絶対許さない」
「……」
「だからお前も、俺を許すな」

人間のお前を、手離せなくなった、俺を。

泣きそうな声が、私の耳を打った。やっぱり私たち、お揃いなのね。繋がれたままの私たちの手は、私が死ぬまでは離せそうにない。ううん、死んでも離せない。貴方が私を、私が貴方を許さないということは、私が死んでからも、私がアーサーの中に残って縛り続ける呪いとなる。酷いわ、そんな呪いの言葉を私に言わせるのね。

頬に添えられた手のひらがそっと私を引き寄せる。私はされるがままに動いて、そのままアーサーとキスをした。好きよ、アーサー。こんなにまで欲しいと思ったのは貴方が初めてなの。何度も、何度も、踏みとどまったけれど、結局私は貴方と離れることができなかったわ。きっと、これから辛いことばかりで後悔することばかりだろうけど、それすら貴方となら構わないって、今なら強く言えるのよ。

「あいしてる」



miniature garden
(扉を開け、手に入れた全てを置いて出ていこう)


[2010/10/17][music by 天野月子]