口の中に広がる甘みにうっとりと頬をほころばせる。やっぱりこの店のケーキは最高だ。おまけにそのケーキの傍らには、アーサーが淹れた紅茶が置いてある。料理の腕前は最低だけど、紅茶を淹れるのは上手いのよね。性格含めていろんなところが不器用なくせに、こういうところは妙に器用なのが不思議で仕方がない。まあ、何にしろ、目の前にはアーサーの淹れた紅茶、そして人気のお店のケーキ。これ以上ない組み合わせだ。 「おいしいいー」 「そうかよ。それは良かったな」 「……何拗ねてんの?」 「別に拗ねてねえ」 アーサーは紅茶を飲みながら、折角作ったのにとかなんとかごにょごにょ言っている。…大体想像はつくけれど。先ほどが買ってきたケーキを出した時、アーサーが急いで何かを隠しているのが見えた。たぶんあの黒い物体は、アーサー手作りのスコーンだ。正直あれは食べたくはないので、申し訳なく思いながらもはとりあえずその話には触れないようにし、フォークでケーキをつついた。チョコレートの味が口の中を甘くし、紅茶がさらにそれを引きたてて、幸せを味わう。 「私、アーサーの淹れる紅茶好きだなあ」 「…!べ、べつに、褒めても何も出ねえからな」 「はいはい」 ふと、アーサーの皿の全く手をつけていないショートケーキが目に入る。今日はチョコを選んだけれど、正直生クリームも捨てがたかった。クリームの上にちょこんと乗るイチゴとか、白いクリームに包まれる黄色いスポンジとか、たまらなく美味なのだ。の物欲しそうな視線に気づいたらしいアーサーが「一口いるか?」と聞いてきたので、素直に頷いた。するとアーサーは、綺麗なフォークでケーキを一口分切り分けると、その一口をフォークで刺し、それをこちらへと向けた。 「…え?」 「どうした?食いたいんだろ?」 食べたい。食べたいのは確かだ。だけどこれはあれじゃないか。俗に言うあーんとかいうやつじゃないのか。の頬が徐々に熱を帯びていくのに対し、アーサーは楽しそうに「ほら、早く食わねえと俺が食っちまうぞ」と笑っている。確信犯か、こいつ。恥ずかしさを覚えながらも、目の前の甘い誘惑が逃げることを許してはくれない。仕方なく口を開けて、そのフォークに近付けた。瞬間、ガチという歯と歯が組み合う音が聞こえた。ひょいとひっこめられてしまったフォークは、アーサーの口の中へと運ばれている。 「〜〜〜っアーサーの意地悪!」 「ふまいな、ほれ」 フォークを加えながらアーサーは口元をつりあげる。もういいよ、チョコも美味しいもんね。自分のフォークを持ち直し、今食べれなかったショートの代わりにチョコレートを放り込もうとしたら、アーサーに唇を突然塞がれた。驚いて開いた口に生クリームのまとわりついた舌が差し込まれ、甘ったるい生クリームの味が伝わる。さらに唾液に混じって柔らかい何かが口の中に移され、それがアーサーの口の中でぐちゃぐちゃになったスポンジだということが嫌でもわかった。「ん、…ふっ」スポンジの感触やら生クリームの味やらは確かに甘いのだけれど、絶え間なく動き続けるアーサーの舌にばかり気が散ってしまって、それを素直に楽しむことができない。そうして息が続かなくなってきた頃、タイミングを見計らったかのようにアーサーの唇が離れた。 「美味いか?」 「おいしいわけないじゃない、ばか!」 「なんだよ、食いたかったんだろ?」 「だからってこんなやり方…!」 「それより」 近い距離のまま、アーサーは挑発するかのように自分の唇を舐め、私の手首を熱い手の平で包む。にやにやと厭らしく笑う姿が、嫌に艶めかしい。カラン、と手に持ってたフォークが落ちた。 俺、チョコケーキが食いたいんだけど。勿論食わしてくれる、よな? ド チ を召し上がれ
ル ェ
[2010/09/14][title by Canaletto][かゆへ!] |