心も価値観も感情も機能も臓器も全て、私は人間と同じものを持っているわ。池袋で群れる人々の中に入り込めば、私はたちまち色褪せて透明になって、他の誰とも変わらずに、綺麗に混ざりこめるのよ。私は他の誰とも変わらない、人間になったの。貴方が愛して愛して愛してあいしてあいしてあいして止まない人間になれたの!ねえ、私、何処からどう見たって、人間でしょう?貴方の愛する人間でしょう?私を愛して。お願い。私は貴方に愛されたくて、人間の体を手に入れたのよ。

「折原さん、貴方を愛してる」

やっと伝えられたわ。応えてくれるでしょう?だって、私は、貴方の愛する人間なんだもの。私は愛の言葉をつらつら並べながら、嬉々として折原さんを見上げる。すると、折原さんは何故か眉を寄せながら、恨めしげな、憎々しげな表情で私を見下ろした。「君のことは、…そうだね、シズちゃんの次くらいに嫌いだな」私は首を傾げる。あれ?折原さんは、人間を愛してるんだよね?だったら、人間になった私も愛してくれるんじゃないの?

「確かに、俺は人間を愛してるよ。それは間違ってない」

私がまだ、化物だった頃に聞かされたのと同じ台詞だった。それを聞いて、私はますますよくわからなくなった。私は貴方の特別になりたいわけじゃないのよ。他の人間を愛するのと同じように、貴方の愛を私に向けてほしいだけなの。私が再び口を開いても、折原さんの表情は変わらない。私の愛が酷く煩わしいみたいだ。そんな折原さんの言動がさっぱり理解できない。おかしいな、人間の知識ならある程度詰め込んだはずなのに。折原さんは本気でわからない私に苛ついたのか、乱暴に私の頭を掴むと、指に絡めた髪の毛を引っ張った。

「……っ痛」
「だけどさあ、…だからこそ、むかつくんだよね」
「いたいよ、折原さん」
「俺の愛する人間の振りして、化物のくせに人間と同等とか勘違いしちゃってさあ」
「ばけものじゃないよ。私は、人間、になったの。それより、痛いから、お願いだから、離して」
「君みたいな化物が、人間に紛れて生活して、俺に愛されようだなんて図々しいにもほどがあるよね」

折原さんの手は離れない。髪の毛が指に絡まり引っ張られて、少し痛い。この痛みだって、か弱い人間だからこそ得られるものだ。ねえ、私は貴方に、人間として愛して貰いたいだけなの。愛してもらえるならどんな形でもいい。化物だった私は、貴方に恋をして、貴方の愛がほしくて人間になったのよ。貴方に、愛してもらえないなら、この体だって意味はない。弱い弱い人間の体は、目から透明な汁を流して、鼻からじゅるじゅる何かを啜る。そんな私の様子を見て、折原さんはいい気味だと鼻で笑う。私は弱いの。ただの、何処にでもいる人間だから、とってもとっても弱いのよ。だから、ねえ、

「貴方を愛してる」

歪んでたってかまわないから、私を愛して。





                           
                              造
                               花
                               と


[2010/08/18][title by alkalism]