「月が、綺麗ですね」 熱くなる頬を誤魔化すように空を見上げ、私なりのいっぱいいっぱいの気持ちを込めたそれを聞いたアメリカさんは、思った通り、頭の上にハテナマークを浮かべ、不満そうな顔をした。 「なんで話を逸らすんだい?」 「逸らしてなんかいませんよ」 「逸らしているじゃないか。このタイミングでいきなり月の話なんて。君らしくないんだぞ」 眉を眉間によせて、その端正な顔を少しだけ歪ませる。夜風が私たちの間を通り抜けて、その金色に輝く髪が揺れるのを見つめる。夜によく映えた金色は、まるで今空に輝いている満月のようだ。私がそれに気を奪われているのが気に食わないのか、アメリカさんは少しだけ拗ねたような表情で、やけ食いのように傍らにあるお団子に手をつけた。 私は先の言葉を口に出すだけでも、心臓が壊れてしまいそうだったのだ。彼がその言葉を知らなくて心からほっとする。その半面、知っていてほしかったという矛盾も抱えているのだけれど。なんてわがままな考え方だろう。そんな自分に嫌気がさして、半分やけくそ気味にお団子の乗るお皿に手を伸ばす。その手が不意に、一回り大きい彼の手に包まれた。 「アメリカさん?」 「、I love you!」 彼らの国の言葉はなかなか難しくて覚えられない私でも、このくらいの言葉の意味くらいは知っている。彼らしく、ストレートすぎるくらいまっすぐな。頬についたままの餡子が少し雰囲気を壊すけれど、それすらも含めて、私の好きなアメリカさんだった。どうしてこんなタイミングなのかはわからないけれど、―――私はやっぱり、二回目でも同じように頬を染めてお茶を濁すことしか出来ない。アメリカさんが自分の持つ言葉らしく、ストレートに表現するというのなら、私は私の持つ言葉らしく遠回しにしか気持ちを伝えることしかできない。はっきりとは言えない私はやっぱり卑怯で逃げ回っている臆病ものだろう。けれど、いつも私ばかりアメリカさんに振り回されているんですもの。少しくらいの意地悪くらいは、許してほしい。 光輝く満月だけが私たちを見ている中で、速まっていくばかりの心臓を誤魔化すように、私は金色を見上げた。
I LOVE YOU!
月が、綺麗ですね。 [2010/04/22] |