「最低」 女は縛られているのにも関わらず、けれど強気に振る舞ってみせる。女は反抗的な鋭い目で俺を見上げ、威嚇している。その女の頬は殴られて赤く腫れていて、唇は切れているらしく赤い血が垣間見え、白い肌には美しいくらいの青が際立っている。あまりに反抗的な態度なので、船の者がやったのだろう。女相手によくやるな。紳士の風上にもおけねえ。海賊だから紳士である必要はないだろうけど。相手が女なら女なりの躾の仕方があるだろうに。まあ、それだけはやるなと釘は刺しておいたからだろうけど。 「騙してたのね。スペインのことも、私のことも」 「騙されてることに気付かねえ馬鹿なお前らが悪いんだよ。滑稽だったぜ?『早く海賊たちを何とかして』って、俺に懇願するところとかな」 「…あなた、本当に最低な人ね。かわいそうに」 「はは、最高の褒め言葉だ」 ああ、そういえばこいつイタリア人だっけ?イタリアの女は強いって聞いたな、大人しそうな顔して中身はやっぱりイタリア人ってわけか。イタリアの奴ら、兵士を全部女にしたら勝てるんじゃねえ?殴られても蹴られても、綺麗な顔をボロボロにされたって相手に決して屈しないんだからさ。俺としてはすぐ泣きごとを言う女よりはこういうやつのほうがやりがいがあるけどな。女の傷だらけの頬を指でなぞり、顎までたどりつくとそれを強制的に持ち上げる。女は変わらず俺を鋭い視線で絞めつけようとする。そんなことしたって無駄だけどな。 「気の強い女は嫌いじゃないぜ」 「私は大嫌いよ、あなたみたいな酷い男」 「ああ、お前。スペインみたいな馬鹿な男が好みなんだっけ?」 「あなたに関係ないでしょう」 「大有りなんだよな、これが」 だってお前、あのスペインの恋人だろ?女の顔が一気に蒼白になるのを見て、いよいよ笑いが耐えられなくなってきた。つながれた鎖がじゃらじゃらと音を立てる。「私を人質にでもする気!?大英帝国のくせにとんだ卑怯者ね!」戦術に卑怯もくそもあるか。ま、人質にするというのも手の一つだけど、生憎俺はそんなことには興味はない。それよりも、先ほどまで何を言われても冷静で睨むことしかしなかった表情が焦りたて、一定量だった声音が大音量で響き渡るほど、女が取り乱している姿が愉快でたまらない。ただ泣くだけの女よりも、こういう反抗的な馬鹿を泣かす方が俺は好きだぜ。屈伏させた時の快感がたまんねえ。 「まあ、それはお前の態度次第だよなぁ?」 じっとりと俺を見上げて睨み続ける女の、の唇に無理矢理噛みつき、青黒い痣が目立つ太腿をさらに痛めつけるように触れた。 翼を千切って燃やしてやろう [2010/03/30][かゆへ!] |