「善処します」 私がそう答えを出すと、ますたーは不満そうな声をあげた。なんでー?いいじゃないポップスくらいぷんぷん。そうは言われても、私は演歌とアニソンしか歌えないんですよ。私のモデルの人がそうだったように。そう諭してみるけれど、ますたーは一向に折れる気配がない。 「そりゃあ、日本さんが楽しそうにラップとか歌ってるのは想像つかないけど…だからこそキクに歌ってほしいんじゃない!」 「それでは、また今度に」 「この前もそう言って断ったじゃない。折角の休みなんだし、滅多に歌わせてあげれないし…いいでしょ?」 そうは言われても、苦手なものは苦手だ。できるなら歌いたくはない。けれどますたーは私を期待した目で見つめてくるので、断るための言葉が喉の奥に引っ込んでしまった。言葉を詰まらせると、さらに「ね、キク。お願い」と追い打ちをかけてくる。ますたーはずるい。無意識にでもそうやって、私を逆らえなくするんだから。 「……仕方ないですね、今回だけですよ」 「ありがとー、キク!だいすき!」 ほら、ますたーは簡単にそんな言葉を私にぶつける。それが私にとってどれほど嬉しくて、痛いものなのかも知らずに。じゃあどの曲にしようかなーとますたーは楽しそうに曲を選び始める。ますたーが嬉しそうだと、私も嬉しい。少しだけ、引き受けてよかったと思った。決して表情になんかには出したりしないけれど。 「あの人にもそれくらい積極的に接してみたらどうですか?」 「えー…無理無理!恥ずかしいよ」 「でもそれくらいしないと進まないじゃないですか。あの人、ますたーのこと妹くらいにしか見てませんよ」 「それもそう、…なんだけどね」 ますたーは少し考えると、頬を赤らめて、やっぱり無理!とかぶりを振った。同じ顔で同じ声の私には平気で好きだのなんだの言うくせに。ちくちくと、自分の中に芽生えた感情のせいで胸が傷ついていく。日本製はは技術がすごいだとかなんとか言うけれど、私からすればそんな技術はいらなかった。妙な感情に踊らされて、混乱させられるくらいなら、ただの歌うだけのロボットであればよかった。そう願えば願うほど、私の中の好きという気持ちがあふれ始める。 「私は、ますたーのこと応援してますからね」 (だから、この気持ちはそっと歌に秘めるだけにしておくのです) ミーツミュージック [2010/03/22][title by alkalism] |