、プレゼントある!受け取るよろし!」


そう言って耀さんが差し出したのは、薔薇の花束だった。赤いチャイナ服をよく着ている耀さんだけど、ぶっちゃけそれとは関係ないけど赤い薔薇は彼には不似合いだった。私は意味がわからず受け取り、首を傾げる。どうしたんですか、まるでアーサーさんかフランシスさんみたいですよ。女の子に薔薇なんて。思ったことをそのまま述べると、あの変態どもと一緒にすんなある!と耀さんはぷんすか頬を膨らませた。


「バレンタインだからある!それで花をやったらおかしいあるか!?」


子供のように拗ねた様子の耀さんを見ながら、ああそういえば耀さんちのほうではバレンタインには薔薇をあげるんだっけ、と脳の片隅から記憶を掘り起こす。楽しそうに脳内で私に情報を植え付けるのは湾だった。確か薔薇の本数にも意味があるんだっけ?一本とか千本とか。しかし手の中に収まる花の数は、一本というには多すぎて千本というには少なすぎる。うーん。記憶を掘り起こしてみても、湾の話を適当に聞いてたせいで細かいところまでは思い出せない。


しばらくしてから、まあいいやと考えることを投げだして、私はまだ拗ねているらしい耀さんの肩を指でつついた。耀さんはつっけんどんな態度で、返事もしてくれない。そんな彼に見えるように、私は包装紙で包まれた箱を差し出した。


「バレンタインなので、チョコです」
「………我にあるか?」


期待に満ちた目で見つめられた。


「いえ、湾と香に、あとついでにヨンスに。渡しといてください」


私が耀さんに三つの箱を押し付けると、耀さんはさっきの拗ねた顔をやめて今度は目を潤ませて始めた。笑ったり拗ねたいり落ち込んだり、本当に表情豊かな人だなあ。本格的に落ち込み始めた耀さんを見ながら、私は他人事のように考えた。少し意地悪したらこのザマだ、なんて可愛い人なのだろう。ばれるとまた何か言われるに決まっているので、ばれないように私はこっそり笑った。でもやっぱり聞かれていたみたいで、今度は不機嫌顔の耀さんが、大きなつり目で私を睨む。今度は苦笑しながら、私はさっきのとはラッピングが違う箱を差し出した。


「…今度は泰や越南宛あるか?」
「耀さん宛です。受け取ってもらえませんか」
「……嫌ある。意地悪するから、チョコなんて受け取らねえある」


少しやりすぎたかな。私よりも何百歳と年上なこの仙人は、わざと拗ねているとわかるようにぷいっと顔をそむける。いちいち反応が子供みたい。だからからかいたくなるのよね。「そうですか、なら自分で食べます」私の言葉が予想外だったらしく、耀さんは一度そむけた顔をこちらに向き直したけれど、もう遅い。折角あげたのに仙人が変な意地を張って突っ返したチョコの綺麗なラッピングは、既にびりびりびりっと破いてしまって、箱は開けられていた。


「ちょ、待っ」


口に含むと甘みが充分に広がった。うん、我ながら美味くできた。指についたチョコもなめとって、美味しいと漏らすと耀さんは名残惜しそうにこちらを見ていた。今にも泣きそうだ。やがて、諦めたように「もういいある。我はもうさっさと家に帰って寝るある」とかなんとか言って立ち上がろうとした。そんな耀さんの襟元を私は素早く捕まえて思い切り引き寄せて、その形のいい唇に食んだ。


「な、なななにするあるか!」
「だって、耀さんが受け取ってくれないから」
「だだだだからって!」


顔を真っ赤にして動揺する耀さんは、自分よりも年上とは思えないくらい可愛かった。今度こそ受け取ってくれますよね。じゃないともう一回口移しですよ。なんてからかい口調で言ってやると、目線を逸らしながらしょうがねえあるな、と呆れたように言いながら上げかけた腰を下ろした。けれど今度は怒っていない。もう私が少し食べてしまったチョコレートを差し出すと、耀さんは余裕のある笑みを作って、私を制した。


「さっきと同じ方法じゃないと、受け取らねえあるよ?」


上等です、私のこいびと。






rollingRose


(一本は『心には貴方だけ』、千本なら『永久の愛』、それ以外なら――)




[2010/02/15]