私よりも少し斜め前を歩くシズちゃんの無防備な手に、そっとそおっと自分の手を伸ばす。よし、いけ、もう十センチ、もう五センチ、あと一センチ!そんなところでシズちゃんは見計らったかのようにその手を持ち上げてしまった。うわあああ、なんてタイミング!私の葛藤なんて知らないふりをして、シズちゃんはその持ち上げた手の指で煙草を挟んで、口から白い有害物質を吐き出していた。


けど、これだけでめげる私じゃない!片方がダメなら、もう片方を狙うまで!すぐさま私は反対の手を狙って手を伸ばした。けれどそれも、シズちゃんが手に持っている煙草を持ちかえてしまい、見事に空振り。不自然な格好で歩く私を見て、何やってんだよ、とシズちゃんがからからと笑う。あ、その顔、かわいい。じゃなくて!


「シズちゃんっ」
「あ?」
「手が、手を、………手に触れたいであります!」


繋ぎたい。本当はこれが本音だ。でも、理由は知らないけどシズちゃんは他人にあまり触れたがらないから、そこまでは口に出せなかった。それでも、私はもうちょっとシズちゃんに近づきたい。触れたい。繋ぎたい。シズちゃんからのスキンシップはいらないから、私からのスキンシップくらいはとらせてほしい。


「握り返さなくていいから。私が勝手に触るだけだから。喧嘩になったらすぐ離すから」


フォローするのはこれが精一杯だ。それでも、やっぱりダメかなぁ。私から触れるなら、大丈夫かなってちょっと思ったんだけど。困ったように頭を掻くシズちゃんに、私があきらめかけたその時、私の目の前に私のよりも大きくてごつごつしてる掌が映った。


「……いいの?」
「触るだけ、な」


シズちゃんは困った表情のままだった。けれど、拒まれなかったことに私は嬉しさを覚え、急いで無防備になったシズちゃんの掌に自分の掌を重ね合わせた。今度は空振らないで、しっかりと。私がどんなに指を絡めても、シズちゃんはやっぱり握り返してくることはなく、掌はだらしなく開かれたままだった。







(私だけが送るシグナル、返されることのない一方通行)




[2010/02/02]