「王冠と剣と財宝、どれくれるやつと結婚したい?」
「はあ…なんですか、いきなり」
「ええから、はよう答えんか」
「……財宝ですかね」


結婚するにおいては二人で暮らす分のお金、もしかしたら将来の分のお金も必要となる。王冠はもらってもつける機会がないし、剣はそもそも女の子にプレゼントするものではないと思う。一番将来的な選択肢は財宝しかないだろう。そうわたしが素直に思ったことを答えると、「お前、夢がないんやね」とオランダさんは溜息混じりにそう言った。答えろって言ったから答えただけなのに、なんだその言い草は。オランダさんはわたしが庭に植えたチューリップに視線を合わせて、その花の先端に人差し指で軽く触れた。


「俺んちの民話にな、三人の騎士に求婚されて、悩んだ末に花になりよった女の話があんねん。その三人が女に差し出した物が、王冠、剣、財宝やったんや」
「もしかして、それがチューリップなんですか?」
「そうや。…ま、お前はそんな繊細な女やなさそうだし、安心やけどな」
「失礼な!オランダさんが思ってるよりはずっと繊細ですよ!」
「財宝うんぬん語ってた図太い神経のやつに言われても説得力がない」
「それは…、心理テストか何かかと思ったんですもん」
「阿呆。俺がそんなもんするわけないやろ」


はいはいそうですね、わたしが悪うございました。大体、質問の仕方がなってないんですよ。その三人の中から選ばなくちゃいけない、と言っている風に聞こえたわけだし。わたしは不貞腐れながらそう言って、オランダさんの横にしゃがんだ。普段立って会話するよりもオランダさんの顔が低い位置に見え、自分の足の短さを少し恨んだ。


「わたしは、その三人の中にオランダさんがいたなら、誰が何を持ってこようとオランダさんを選びますよ」


勿論、その三人の中にいなくても、だけど。言った直後、顔を見ているのが恥ずかしくなり、わたしはすぐに地面に視線を落とした。緊張をほぐすように地面の上でのの字を書き連ねて、次にオランダさんが言葉を発するのを待つ。けれど、オランダさんは何時まで経っても何も言ってこない。あ、あれ。迷惑だったかな。胸の奥に不安が積り始め、いてもたってもいられなくなりわたしは思い切ってオランダさんのいるほうに顔を向けた。


「オランダさ――」
「やる」


わたしの言葉を遮って、オランダさんはわたしに何か白くて丸いものを押し付けた。手のひらの中に収まったそれを見てみると、チューリップの球根だった。普通、女の子には花をあげませんかとか、というか今の、私なりの告白だったんだけど…どう処理されたのだろうとか、言いたいことは色々あったけど、目の前のオランダさんの顔が柄にも似合わず赤くなっていたので、わたしは何から口にしていいかわからず、ただ手の中の球根をぎゅっと握った。そんな表情されたら、勘違いするでしょう?






色リップス




(チューリップの花が王冠、葉が剣、そして球根が財宝を指していることを知ったのはこれよりずっと後の話だ)




[2009/12/09]