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まとわりついく汗の匂いに混ざって、甘い匂いが鼻についた。額にはひんやりと心地のいい冷たさが触れていて、僅かに漂う風が汗をさらっていく。暗かった視界をゆっくりと開け、ぼうっとする意識を徐々にはっきりさせると、近い、けれど変な距離で横から栞の姿と、その後ろの大きな木と空が目に映る。風が吹くたびに、枝についた葉が触れ、僕と栞を覆う陰が動いた。あれ、僕どうしたんだっけ?目をぱちくりさせて、今の状況を呑み込もうとするけれど、熱が全身を覆っていて気持ちが悪く、いまいち理解できなかった。 「まだ、気分悪いですか?」 「……うん。ちょっとだけ」 「そうですか…」 なぜか落ち込んでいる栞から視線を外して横に向けると、僕の大好きな黄色が規則正しく並んでいた。絵のような光景が瞳の中に入っていくと、だいぶ調子の戻ってきた僕の頭で先ほどまでの出来事が再構築されていった。そういえば、日本くんちに遊びにきたんだっけ。日本くんは嫌がっていたけれど、栞はすごく喜んでくれて。僕の好きなひまわり畑に連れてきてくれて。それから突然頭がくらっとして、そこから意識が飛んで、 「ごめんなさい」 「どうして謝るの?」 「私がしっかりしてなかったから、ロシアさんに迷惑かけちゃった、…」 日本くんが「今日は暑いですから、熱中症には気をつけてくださいね」と言っていたから、原因はどう考えてもそれだし、栞のせいじゃない。僕は別に迷惑だとは思ってないんだけどなぁ。日本くんに似て謙虚なところがある栞だけど、時々それが謙虚を通り越して卑屈になるときがある。そういうところも、かわいいと思うけど。僕は、横向きに映る栞に手を伸ばして、綺麗な漆黒の髪に触れた。熱を込めたそれは、少し肌にべたつく。けれど、それすらも栞だと思うと悪い気分ではない。髪の毛に触れている手を丸めて指に絡ませると、そのまま思い切り引っ張る。「いっ」栞の口から漏れる小さな悲鳴も、額から落ちる濡れたタオルも無視して、そのまま軽く小さな唇に触れた。熱を持ったそれが、自分を覆う熱以上に熱い。 「栞に膝枕してもらえるなら、こういうのもいいかな」 唇を離してから、栞は僕が持っている熱以上の熱で頬を染めて、先ほど触れた場所を両手で覆った。かわいい。落ち込まれるより、こっちの方が断然いい。これだから目が離せない。 「ロシアさんにならいつでもしてあげます」 囁くくらいに小さい声で栞は、恥ずかしそうに言った。真っ赤だね、とからかってみると「見ないでください!」と両手を使って目隠しされる。その両手を掴んで目から離れさせて、「ね、もう一回。今度は引っ張らないから」とねだると、栞は恥ずかしそうに視線を泳がせた。やがて、口をぎゅっと結んで小さく頷くのを確認すると、僕は少し重たい体を起こした。 「日本くん、うらやましいなあ」 「え?」 「僕がほしいもの、持ってるから」 「ひまわり畑なら、ロシアさんちにもあるじゃないですか」 「そうじゃないよ」 熱を持った唇にもう一度触れる。首筋に汗が伝うくらいに暑いのは、太陽のせいにして。 ひまわり
の体温 [2009/12/02] |