「会長は、私なんか苛めたりして何が楽しいんですか」


そいつはぼたぼたと髪の毛から汚い水を垂らしながら俺を睨みつけた。ぐちゃぐちゃに濡れた制服で上目遣いで睨まれるとつい背中がぞくぞくと呻く。俺は、先ほどにかけた水が入っていたバケツを放り投げた。カラカラと音を立て転がり、それはの水が滴る足にこつん、と当たった。


「わ、私みたいなの、相手にするより、もっと役に立つ人を相手にしたらどうなんですか。植民地、たくさん持ってるんでしょう?」
「そうやって言い逃れしようって魂胆か?」
「ち、違、」
「そうか、は誰かを犠牲にしてまで俺から逃げたいわけだ。それで誰かが不幸になってもいいって思ってるんだろ」


俺がはっきりとそう告げてやると、の顔はみるみるうちに真っ赤になり、手は拳を作り、体全体が震えていた。試しに一歩踏み出してみると、は自分をかばうために一歩下がる。俺がもう一歩踏み出すとはやはり一歩下がった。そうして攻防戦を続けるうちに、の背中に壁があたり、一瞬壁に気をそらしたのを見ると、俺は好機とばかりに逃げ出さないよう間合いを一気に詰めた。


「そうですよ、悪いですか!?こんな風に、毎日毎日居残りさせられて、本来なら会長がやるはずの書類とか全部書かされて、此処は違うだの字が汚いだの言われたり、掃除してるところでわざと私にかかるようにバケツの水をまいたり!それから生徒会室でえっちな本読むのやめてください!見つけるたびに恥ずかしい思いするの、私なんですよ!?それ狙ってやってるんですか?」


は一気にまくし立てると、目からぼろぼろと涙を流し始めて、両手でその顔を覆ってしまった。日頃から泣かせてーなこいつ、とか考えていたけれどいざ目の前で泣かれると困る。てかどうせ泣くなら隠すなよ、泣き顔見てえし。つかそういうことじゃなくて、お前、泣きたいのはこっちだ。なんで此処までされてわかんねーんだよ、ほんと。てか今の状況わかってんのか。男にこれだけ迫られている格好なのに、どうしてそれが思った通りの発想をしてくれないんだ。どうにも思った方向の展開に持っていけない。俺があーだこーだと悩んでいることも露知らず、は休まず話続ける。


「大体、会長だって黙っていればかっこいいんだから、言いよってくる人だって好いてくれる領地だっているでしょう?そっちに当たればいいじゃないですか。なんで私ばっかり、こき使われるんですか」


居残りは少しでも長く一緒にいたいからだろ。字が汚いのと間違いについては本当のことだし、これでも結構俺が訂正してんだぞ。バケツはなぁ、お前こうでもしないと俺のこと無視するだろ、かけられたくねえんなら目が合ったのにわざと逸らすなよ。つか人の机勝手に漁るなよ!それにあそこに置いてあるエロ本は俺のだけじゃなくてフランスのも混ざってるんだからな!お前の言うとおり、お前みたいに俺に反発する国もあれば、逆に取り入ろうとする国もいる。けど俺はお前がいいんだよ、だからずっとそうやってアピールしてるのになんでわかんねえんだよ。


「……透けてんぞ、ストライプ」


頭の中でぐるぐると言いたいことを浮かべて、どうやってこの馬鹿に伝えようかと考えた結果、最初に口から出た言葉はこれだった。うわ、しまった。口を閉じてももう遅い。は両腕を組んで覆い隠し(言わなきゃよかった)、さっきまでぼろぼろと流していた涙はぴたりと止めて、代わりにもう一度俺を見上げ睨みつける(いやそんな顔で睨まれても誘ってるとしか思えない)。


「会長の、ばか!へんたい!大っ嫌いです!!」






からかい


空回って


絡まり


から


[2009/11/07][かゆへ!]