の薄情者、大馬鹿者、それでも我の恋人あるか。机にうつ伏せになって、そんなことを呟いていると、家に遊びに来ているシナティちゃんが静かに我の頭を撫でる。そんなシナティちゃんに癒されながらも、胸の中ではぐつぐつとへの不満が募っていく。なんでこんな日に仕事あるか。そうでなくても、最近は互いに仕事が忙しくて、あまり時間も作れなかったというのに。


「今まで何千回も祝われてきたんでしょう?ならいいじゃないですか、一日くらいこんな日があっても。いい年こいた爺があんまり我侭を言うんじゃありません」


のことを教えてくれた菊が、電話越しに我に叩きつけた言葉を思い出す。四千歳でもなんでも、好きな人にはちゃんと祝われてーある。「誰に何回祝われようと、そこにがいなきゃ意味がねーある。なんで仕事を入れたあるか、この馬鹿弟」なんとなくいらいらして、思わずそう言い返すと、電話越しに溜息と「八つ当たりなんてみっともないです」という呆れた声が耳を打った。八つ当たり、だってしたくなるあるよ。はああああ。考えれば考えるほど落ち込んで、大きく息を吐いて、机に顔を埋める。宥めるように我の頭を撫で続けるシナティちゃんの手が、何時もよりも小さく華奢で、いちいちを思い出させる。


「シナティちゃん、慰めてくれてるあるか?」


我の言葉にシナティちゃんは少しだけ沈黙すると、静かに首を縦に振った。たまらなく嬉しくなって、「シナティちゃんは優しいあるうう!」と思わず抱きついた。なぜかおろおろし始めるシナティちゃんに、少し違和感を覚える。なんか違うある。


「シナティちゃん、なんかいつもより体がちっちゃいある」
「…!」
「それに、リボンもいつもと違うある。首も真っ赤で、どうしたあるか?風邪あるか?我に言ってみるよろし!」


なぜかいつもよりも一回りか二回り小さいシナティちゃんを見下ろして聞いてみるも、シナティちゃんは俯いたまま沈黙していて何も答えない。そういえば今日は一度もシナティちゃんの声を聞いていない気がする。一体どうしたあるか?我が怪訝に思い始めたころに、くぐもった声で「耀さん」とよく聞きなれた声が、


「あいやややや!!シナティちゃんの中からが出てきたある!?」


シナティちゃんの被り物を頭から外して出てきたのは、顔を真っ赤にしただった。一体どういうことある!?は仕事じゃなかったあるか!?我が混乱したままに問うと、「あの、菊兄さんが、耀さんを驚かせてきなさいって」と戸惑いながら答えた。全部アイツの仕業あるか…!しらばっくれて「急に仕事が入ってしまい、は今日そちらへ行けなくなってしまいました」とか言いながら、内心で笑っていたあるか!


「あの、耀さん」
「ん、…何あるか?」
「怒ってますか…?」


心配そうに上目遣いで見上げるを見ると怒る気にもなれず、さっきまでぐつぐつと胸の奥に積っていた不満は一気に何処かへ飛んで行ってしまった。「怒ってねえあるよ」とが先ほど我にやったように頭に手を乗せると、は安心したように胸をなでおろす。まあ確かに驚いたが、本来怒りをぶつける相手はこいつではない。すっかり落ち着いたらしいは、「これ、菊兄さんが作ったんです。プレゼントだそうで」との被っていたシナティちゃんを渡してきた。リボンがいつもと違ったのは、包装のつもりだったのか。…菊は相変わらず器用あるね。呆れながら呟くと、「はい!菊兄さんはすごいです!」と自慢げに笑った。そんなの頭に、もう一度その被り物をかぶせる。いきなり視界が真っ暗になったことで驚いたは、驚いたような声を上げて、急いでその被り物を外そうとするも、素早く我がその手を押さえつけた。やっぱりその手は小さくて、シナティちゃんの毛深くて太い指とは似ても似つかない。


「耀さん?なんですか、一体…」
からはプレゼントはないあるか?」
「……すみません、今日まで何がいいのか思いつかなくて」
「そうあるか、それは好都合ある」


腕を被り物の後頭部と華奢な背中に回してそのまま胸に引き寄せる。の頭よりも幾分も大きいその頭は抱きしめにくかった。被り物の下からはみ出ている肌色はみるみるうちに赤に染まり、相変わらずのウブな反応につい笑みが浮かんでしまう。いつもと違うリボンをつけたシナティちゃんに包装されたを見て、顔が見えないのが残念ねと思った。


「我はシナティちゃんより、こっちのほうが欲しいある」



(誕生日おめでとうございます、耀さん)
[2009/10/01][Happy Birthday!!]