「あちーある」
「ですね。今年は猛暑です」
「クーラーつけるよろし」
「残念ながら現在故障中です。菊兄さんが今度直してくださるそうですが」
「…あいつの今度はいつになるかわからねーあるよ」


ごもっとも。それにあの人は内輪と風鈴さえあれば「涼しいですね」と言い張れる人だし。まあ、流石に原稿描く時はそうはいかないから、そのうち取り換えるでしょう。は寝ころんだまま顔を横に向け、むんむんとする天井を見上げた。縁側につりさげられた風鈴は、揺れそうにない。


「あちーある」
「耀さん、それ何回目ですか」
「何回も言いたくなるくらい暑いある!」
「…あんまり言ってると、余計に暑くなりますよ」
「それよりもまずが離れれば少しはましになる気がするね」
「嫌です」


耀が「こんなにひっついていたら暑くて当たり前ね」と溜息を吐きながら小言を呟くのを無視して、は耀のお腹に回したままの腕にさらに力を入れる。けれど、引きはがすつもりもないらしく、動く気配も感じられなかった。動くのが面倒なのか、それとも熱くてもこうしていたいと自分と同じことを思っているのか。はそこまで考えて、思考を止めた。拒否されてないなら、何だっていい。背中にさらに顔を埋めてみる。手はべたついて、体温も現在進行形で上昇して、心臓の動きは最高潮。そんな居心地の悪い場所だというのに、汗の匂いも熱い体温も壊れそうなくらい早い心臓も、この人相手なら悪くなかった。


「耀さん、」
「何あるか」
「あつくて、死にそうです」
「ならとっとと離れるよろし」
「離れたら、寂しくて死んじゃいます」
「おめーはいつから兎になったあるか」


ふいに、手の平の上に同じような形の熱いものがかぶさる感触がした。それはゆっくりお腹まわりのの手を引きはがしたかと思うと、耀の体がぐるんとこっちに振り返った。寝ころんでいたせいで、いつも綺麗にまとめてある髪の毛が少しだけ乱れていた。向こうからしてみればこっちも同じだけど。首筋を伝う汗が、やけに艶やかだった。


「わっぷ」
「…変な声ある」
「耀さんが不意打ちするからです」


背中を押されて、そのまま耀の胸元へダイブイン。いつの間にか背中に回っていた手は頭までのぼっていて、子供をあやすようにぽんぽんと優しく叩く。息遣いも汗の匂いもさっきよりも近い。さっきよりも格段に上がった心拍数で、行き場をなくした手が耀の背中の後でさまよっているのがわかる。なんとなくどうしようもなくなって、そのまま腕も体も全部耀に預けると、ぽんぽんとリズムよく鳴らしていた耀の手が止まった。


「耀さん、」
「…何あるか」
「熱いですね。熱くて死にそうです」
「我もあるよ」













     となら




熔けてもいい




[2009/09/16]