、知っていますか? うちだけかもしれないんですがね、 すーすーと足元を抜ける風がくすぐったくて、身をよじった。普段は着物ばかりを着ていて、全身を覆っているものだから、こんな露出した服は初めてでとてつもなく恥ずかしい。膝丈ほどの長さでスリットはそれほど広くないものの、足を露出させてることには変わりないのだから、慣れないのも当然だ。けれど私はこれを着ていることそのことより、これを着ているところをまじまじと見られている今の状況が恥ずかしい。耀さんを目の前に、私はどんどんどう対応していいかわからなくなる。 鏡に映る自分を見ても、どうも似合うとは思えない。「にきっと似合うある。受け取るよろし」そう言ってこれをくれた耀さんには悪いけど、やっぱり私には合わないんじゃないかな。チャイナドレスなんて綺麗な足の人とか、美人のお姉さんとか、湾ちゃんみたいに可愛い子とかが着るものだよね。服はなまじと可愛いものだから、余計に自分がみすぼらしく感じる。じっと動かない耀さんを見て、そんなに見ないでほしいと私は身を小さくするばかりだ。なんで、こういうタイミングでこの人はうちに遊びに来ちゃうんだろう。せめて、一人で着て一人でガッカリするだけならまだダメージも小さかったものを。やがて耀さんの手がすっと伸ばされて、思わずびくっと肩を震わせ目をつむった。な、何をしてるんだろう私は。頭に何やらごそごそとやっている。手の感触が離れたところで、そっと目を開けてみると子供みたいに嬉しそうに笑ってる耀さんの姿が目に入った。 「そのままでも十分可愛いあるが、こっちの方が可愛いあるよ!」 鏡を見ると頭に小さな花の髪飾りついていた。そういえばこの前、「今度この服に合う髪飾りを探してきてやるある」とかなんとか言っていた気がする。この人は私を甘やかして、餌付けでもしているのだろうか。しっかり釣られている私も私だが、どうにも私はこいびとではなく妹とか子供とか娘とか、孫扱いされている気がしてならない。頭の上に手を伸ばして髪飾りに触ろうとすると、「髪が崩れるから触んなある」と腕を取られてしまった。 「我の見込みは間違ってなかったある。よく似合ってるあるよ」 「そ、そう、ですか?それは、どうも」 「褒めてるのに反応が薄すぎねーあるか」 何も言われないのも不安だけど、言われたら言われたで恥ずかしいって、どっちに転んでもなんて羞恥プレイだ。かわいいかわいいと褒めてくる耀さんを尻目に私は視線を下へ落とした。畳の目を見つめながら、指先と指先を適当に弄くりまわして絡めながら気を紛らわせていた。耀さんは私に色んなものをくれるけれど、それはこいびとへのプレゼントというよりもどちらかと言えば初孫を喜ぶ爺さんの行動だ、とたびたび思う。けれど私にとって耀さんは、兄でも親でもましてや祖父でもない。どうしてもこの人は男の人としか思えないし、そんな異性からもらう褒め言葉に戸惑い、意識しないなんてことはできないのだ。 「、知ってるあるか?」 突然、耀さんの声がさっき可愛い可愛いと連呼していた軽いものじゃなく、あまりに真剣で低いものに変わった。私は驚いて下げていた頭をあげて見ると、耀さんはじいっと私を見ている。そして、そんな耀さんの言葉と菊兄の言葉が脳内で重なった。家で貰ったチャイナドレスを広げて、可愛いなー、着たいなー、とか考えているところで菊兄が私にからかい半分で言ってきた言葉だ。まさかぁ、耀さんに限ってそんなことはないない、と誤魔化しながらも頭を振っていたのを思い出す(たぶん誤魔化してるってばればれだったろうけど)。菊兄のばか、変なこと考えちゃったじゃん!顔に赤が増していくのが分かった。同じことを話すとは限らないのに、どこか期待している自分が憎たらしい。 「な、ななにを、ですか?」 私の声が裏返ったことも気にせずに、耀さんは悪戯を仕掛けるみたいな顔で菊兄と同じそれを伝える。そういえばこの人はすごく子供っぽいところがあって、時々私より年上であるのかと疑ってしまうけれど、本当に本当は私よりもずっとずっと大人の人なんだ。それを聞いたまだ子供の私の顔はぼんっと沸騰してしまい、耀さんはそれを「は純粋あるなぁ」と他人事のように眺める。それからずっと弄くりまわしていた指先と指先の間に耀さんの片手が侵入し、さらには私が逃げないようにか絡めた。そしてもう片方の手で耳と頬を包むように添えて、私が何か言うよりも早く素早く私の空気を塞いだ。 花と獣
(男性が女性に服を贈るのは、脱がせたい時なんだそうですよ) [2009/08/16][title by 不在証明] |