(※菊の妹なにょ日で、名前は桜を使用しています。)






「えいっ」「はっ」「あーおしい!」


謎の掛声とともにはひらひらと舞う桜の花の中でジャンプを繰り返していた。彼女が跳びはねるたびに、彼女を避けるように桜の花びらがふわりと舞っていく。「何をしているんですか」と聞くと、は跳ぶのをやめて、火照った顔をこちらへ見せた。赤く健康そうな肌色に私の胸は一度大きく高鳴る。


「桜の花びらをね、地面に着く前にキャッチできたら願いが叶うんだって!」
「またそんな子供みたいなことを。…キャッチするまでもなく頭に絡まってるじゃないですか」
「え」


私は彼女の元へと近づき、その黒く艶めいた髪の毛に手を伸ばして、その中に映える桃色を抜き取る。ほら、と彼女の手に乗せてやると、は恥ずかしそうに頭をかいて受け取った。桜もついてるよ、とは私の髪の毛に頭を伸ばし軽く触れる。その一瞬一瞬に私がどんな思いをしているかなんて、は知らない。知らせるつもりなんて一切ないけれど。どうせ教えたところで、私はたったひとつのとの繋がりが消えてしまうというデメリットだけだ。私は適当なベンチを見つけて、その上に積もった花びらを軽く払うとそこに腰かけた。何をお願いしたのか聞くと、は内緒だよと人差し指を口の前で立てる。私にくらい言ってくれてもいいじゃないですか、そう説いても彼女は「願い事は誰かに言うと叶わなくなるんだよ」と言うだけだった。まあ、おおよそ見当はつくけど。


も私の後を追って、同じように桜を払うとそこにぽすんと座った。上を眺めたままのは横目でこっそりと眺めると、つい溜息が洩れた。私も同じように樹を見上げた。ひらひらと散っていく桜の花は、同じ名前の私とは違い、すぐなくなってしまう命だ。樹そのものは長生きだけれど、私が生きている時間と比べれば短いものだ。人間だって同じで、今私の隣に座るこの子もいつかは私を置いていってしまう。人間も、花も、なんて短い生命なのだろう。は何か思いついたかのように突然立ち上がって、一番近く手に届く位置に咲く花に手を伸ばす。戻ってきたの手の中には花びらではなく花そのものが咲いていた。そして再び私の髪の毛に触れた。


「ん、やっぱりかわいい。名前が桜なだけあるね」
「名前は関係ないと思いますけど。何ですか、いきなり人の頭に花ぶっ刺して」
「桜ちゃんこわーい。あは」


あまりにふざけたことを言うので、私が頭に刺さっていると思われる花を取ろうとすると、はダメダメーっと両腕を拘束した。すっごく可愛いんだからとっちゃだめ、もったいない!そう説得するを間近で見て、私は言葉を発することが出来なくなり、かわりに無言で頷いた。すると簡単にその拘束は解かれてしまい、なんだかもったいないことをした気がした。ざあ、っと風が吹いて髪をさらう。私は花びらが上へ上へと舞いあがるのを見て、「綺麗だね」と月並みなことを言ってみせるを見つめていた。


「……そうですね。とてもきれい」


どんなに綺麗だとか可愛いとか褒めていても、どうせ一番綺麗だと、好きだと思うのは菊なんでしょう?




彼女の周りに埋め尽くされている菊にそっと触れた。この中には桜は入れられない。ああ、やっぱり私は最期ですら、隣にいることが許されないのね。