ー!メシー!」


わざとらしい咳をしながらギルは「腹減ったー!」とかなんとかわめいている。あーうっさい、今お粥作ってるっつの。病人ならもっと病人らしい態度をとってほしい。大体風邪とかひくと食欲なくなるものじゃないの。風邪ひいたっていうから少しは心配してきてやったものを、本人は何時も通りだし、ルートは出かけちゃって誰もいないからメシ作れってうるさいし、なんだかこれだけ元気だと心配して損した気分になる。けれど熱があるのは本当らしく、体を起こすにも重たそうだったし顔色も悪かった。…辛いなら騒がなきゃいいのに。


「出来たよ。お粥」
「粥かよ。腹に溜まんねぇな」
「…いらないなら捨てるけど」
「いただきます!」


息をついて椅子に座り、ギルの膝の上にお盆を置いた。ギルは何時も通り頭の上にヒヨコを乗せながら(風邪がうつらないかちょっと心配)、一向に動こうとしない。どうかしたのかと首をかしげると、「あーんとかしてくれねぇの?」なんてふざけたことを言い始めた。病人だと思って甘やかしたらこれだ。風邪で辛いとはいえ、図々しいことには変わりない。私はハァとギルに聞こえるように溜息を吐いた。


「あんまりふざけたこと言ってると、その頭にこれぶっかけるよ」
「冗談!冗談だから!」


お盆を手に取ろうとするとギルはその手を掴んで「冗談!冗談だ!」と弁解して食べ始めた。「あちっ!」お粥を口に運ぶとその熱に驚いて、ギルはすぐにスプーンを取り出した。私はあまりの慌ただしさに苦笑いしながら水を渡すと、ギルは受け取ってすぐ、舌を冷やすようにそれを口に含んだ。よほど熱かったのか目が潤んでいて、少しかわいい。仕方ないなぁと思いながら、器を手に取り、スプーンでお粥をすくった。息を吹きかけ冷ましてから、「ほら」とそのスプーンを差し出す。結局のところ、私はギルに甘いみたいだ。


「え?」
「……あーん」


これって思った以上に恥ずかしい。間抜け面だったギルは途端に顔をにやつかせて、しょうがねえなぁなんて言いながら口を開けた(しょうがないのはどっちだ)。それから「ほら次!」なんて言ってるもんだから、「一口だけだよ、調子に乗るな」とスプーンを皿に置いた。ギルは口を尖らせてから、まあいいかと一人納得して食べ始めた。


「薬もちゃんと飲んでね」
「おう」
「それじゃ、お大事に」
「えっ。ちょ、何処いくんだよ!」
「何処って…帰るんだけど」


病人なら静かに寝るのが一番でしょ。どうせそのあたりに器を置きっぱなしにしておいてもルートが帰ってきたら片付けてくれると思うし。私が立ち上がろうとすると、ギルは一瞬何か言いたそうに私のほうに視線を向け、そう思うかとすぐに「そうか」と落ち込んだ様子で肩を落とした。それからケセセセセというギル特有の笑い声をあげ始めると、いつもの口癖をなぜか自慢げに言い放った。


「まあいいけど!家ん中で一人楽しすぎるしな!」


その口癖はつまり、強がっているということで、つまりは帰ってほしくない、のだろうか。…なら、そういえばいいのに、変なところでプライド高いんだから。立ち上がった私をちらちらとギルが視線をうろつかせながら、まだ食べ終わっていないお粥に手をつける。ギルのそんな反応が可愛くて、私は仕方ないなぁなんて上から目線で考えながら、腰を再び椅子に落とした。私の行動を不思議に思ったらしいギルは、帰るんじゃなかったのかとでも言いたげな顔で私を見る。


「…私が帰っちゃうとギルベルトくんは寂しいみたいだし?」


そうからかいながらで聞くとギルは図星だったらしく、「俺は一人楽しすぎるから平気だぜ」なんて目を泳がせながら強がり続ける。ばかね、ばればれよ。


「よく考えたらギルって、一人にしたら絶対騒ぐタイプだもん。それで悪化させないか心配」
「…でもお前、うつったらどうすんだよ」
「その時はギルがお見舞いに来てお粥作ってくれるんでしょ?」


だから、早く治してね。ギルは照れたように顔を逸らして「すぐ治してやるよ。それで、俺様特製粥を作ってやるからな!だから、帰んなよ」それは私にうつす気満々ってことですか。迷惑と言えば迷惑だけど、ギルなら仕方ない。ギルなんて、きっと私が病人だとしても無駄に元気づけようとして騒ぐに違いない。私は想像しながら笑い、「楽しみにしてる」と、お粥を乗せたスプーンで騒がしいギルの口を塞いだ。




     を








[2009/07/26]