カチャ、カチャ。真剣な眼差しでライフルを手入れしているスイスさんを時々見ながら、私は一枚ずつページをめくっていく。カチャ、カチャ。音は気にならない。むしろ私はその音に慣れてしまって、それを聞いていることが心地良かったりする。カチャ、かちゃ。窓から入ってくる太陽の光が金色の髪に反射して、少し眩しい。欧米の人の華やかな容姿は、私のような真っ黒な髪で真っ黒な目の人間からすれば憧れるものだ。金髪に青い目は、安易な発想かもしれないけどまるで童話の中の王子のようだと思う(まあ王子様は銃振り回したりしないけど)。かちゃ、 「さっきから何をジロジロと見ているのだ」 手入れをする音が止まった代わりに、スイスさんの声がしてはっと我に帰る。いつのまにかスイスさんは手を休めていて、怪訝そうにこちらを見ていた。いつもは私が見ていても全然気にしないスイスさんが声をかけるほど、見ていたのかな。そう思い返すと途端に恥ずかしくなって、私は「なんでもないです」と弱々しく答えるだけだった。誤魔化すように本を一ページめくって顔を隠した。 「そ、それより手入れの続きしないんですか?」 「しようにも貴様の視線が気になって集中できないのである」 「……」 「誤魔化されると余計に気になるだろう」 言わなければ撃つぞ、とでも言いそうな眼差しでこちらを睨んでいて、私は少したじろいだ。言えないわけではないけど、さっきまで自分が考えていたことを改めて口に出すのは恥ずかしい。でも結局、スイスさんの威圧に負けて、私は小さくなりながらそっと口を開いた。そもそも、私がこの人に勝てるわけがないのだ。武力的にも身体的にも精神的にも。 「金髪が、綺麗だなぁ、と」 多少お茶で濁しながら、だったけど。嘘は吐いていない、簡潔に答えただけなんだから。私がごにょごにょとそう伝えると、スイスさんは「我輩からすれば、お前のような黒髪の方がいいと思うのだが」と顔色一つ変えずに。そうしてじっと私の方を見つめてくる。スイスさんって結構言葉が直球だよね。だからこそ直球すぎて冷たい印象持たれちゃったりするけど、そういうのじゃなくて、ただ単純に自分の意見はしっかりと持っていて、それをしっかりと伝える人なんだよね。…時々それが恨めしかったりするけど。 「ところでいつも思っていたのだが、お前はどうして離れたところに座るのだ」 「え?だって、スイスさんの邪魔に」 「ならないのである」 わ、即答だ、この人!スイスさんは立ち上がってズカズカと私の方へと歩いてくる。それからまだ手入れ途中のライフルを置くと、私の隣に腰をおろした。それからもう一度手入れを始める。カチャ、カチャ。表情には出していなかったけれど、耳が少し赤い。…真正面からじっと見られるのが恥ずかしいならそう言ってくれればいいのに。ああいうことは平然と言ってのけて、こういうことは照れるのだから。 「…何を見ているのだ」 なんでもないですよ、スイスさん。 ![]() |