「、、どうしたあるか」 我の声に反応したかのように目を開けたは、視界を動かしてまわりをキョロキョロ見たと思ったら、やっと我に焦点を合わせた。それからすがるような眼で我を見上げ、白くて細い腕を伸ばしそれを我の首へと絡める。「にいに、」か細くて弱々しいその声が我の耳元へ響いて、我もそれに呼応するように背中に腕を回した。にいに、とはまた懐かしい呼び名あるな。いつからか年頃のせいか「にいに」から「中国さん」などという他人行儀な呼び方に変わっていったものだから、今のからそれが聞けるとは、なんて貴重なことあるか。先ほど風邪を引かぬようかけた掛け布団が我の膝へとずれ落ちた。 「怖い夢でも見たあるか?」 「……」 は答えたない代わりに我の肩を濡らし始めた。体も震え、答えることままならぬようだった。よしよし、背中にまわした手で落ちつくようにと静かに叩く。最近はも結構大人びてきたと思っていたのに、こんなところで子供に逆戻りとは思わなかったある。よく「こわいゆめみた」と言って大泣きしながら我の部屋を訪れたあの時が懐かしい。もうあの頃のように大泣きしたりはしねぇあるが、こういうところは今だに変わらないままあるね。すらりと伸びた手足や、女らしくなった腰つきやら胸やらで、昔と同じようには抱き締めにくい。我の腕の中にすっぽり収まってしまう点では同じなのに、抱き締めるための輪の大きさが全然違う。 「大丈夫あるよ」 「……」 「怖いことはなーんも起きねーあるから」 小さい頃はそう言ってあやすと泣きやんだものだった。それと同じようにやっぱり、の肩は震えが少しずつ抑えられていく。首に回された腕が緩められ、目の前いっぱいにの顔が広がった。…まだ泣きそうな顔をしているあるな、我が一緒にいるというのに何がそんなに不安あるか。目頭にたまっている涙を親指で強引にふき取り、額に唇を落とす。怖いことは全部忘れるよろし。我がそう言って笑いかけると、さっきまでの泣き顔が何故か真っ赤になった。 「…風邪でも引いたあるか?」 「違うもん、この鈍感」 は誤魔化すようにまた我の肩口に顔を埋めた。鈍感とは失礼あるな、我はお前をそんな風に育てた覚えはないあるよ。顔をあげたはやはり不機嫌で、「ちがうよ、ちがうもん、…中国さんのばか」と小さな声で言っている。…呼び方がまた元に戻っている。「中国さんより、我はにいにの方がいい」「私はいや」はそう言いながらぎゅ、と小さな手のひらで服を掴む。ああもう、いいから早く寝るよろし。抱き締めたままごろりと転がると、はいとも簡単にその場に倒れた。願いを込めて、もう一度の背中に手を回してそっと撫でた。いい夢見るあるよ。 やさしいゆめを みればいいよ [2009/04/29][title by 星が水没] |