真っ赤な薔薇の花束をアーサーは私の前に差し出す。私はびっくりしてそれを受け取ることすら忘れてじっとアーサーを見つめた。じれったくなったらしい彼は、「なんか、言えよ」とぶっきらぼうに言った。けれどやっぱり彼としても恥ずかしさが残っているらしく、その薔薇と同じくらい、いやそれ以上に真っ赤な顔をしていて、言ってることは乱暴なのにそこに子供のような可愛さが残っている。アーサーのそんなところが私は好きだった。そんなアーサーが愛おしくて、私はその薔薇ごと彼を抱き締めると、アーサーは咄嗟に薔薇を避けて潰さないようにしてくれていて、ちゃんとそういうところは気が回るんだね、と妙なことに感心してしまった。慌てたように私に声をかけるアーサー、私は何も言わずにそのままでいると、そっと花束を持っていない方の手を私の後頭部に添え、花束を持つ手を背中に回した。


「アーサーが薔薇なんて、なんだか似合わないわね」
「な、なんでこのタイミングでそういうこと言うんだよ、馬鹿」


紳士の国のくせに、口が悪くて天の邪鬼で酒飲んでは暴れるような人なんだから、そう思われたって仕方がないでしょう。ああ、でもスーツを着て花束を持つ姿は意外と様になっていたかもしれない。あまりじっくりは見れなかったから、はっきりとは言えないけど。もうなんていうか、なんていうか、「アーサー、すき」気持ちがいっぱいになって溢れ出てくる。それをそのまま伝えると、アーサーは私を抱き締める腕を少し緩めて、後頭部に添えた手を頬に滑らせてくいっと顔を上げさせた。


「なんでこのタイミングでそういうこと言うんだよ、ばか」


さっきと同じ台詞、拗ねてるような照れてるような顔、でもそんなの一瞬でそのまま引き寄せられ唇に弾力が伝わった。触れるだけですぐに離すと、アーサーは口元を手で押さえているのが見えた。ちらりと見える耳は熱を帯びていて、たぶん私の頬と同じくらい、アーサーが手に持ってる薔薇の色。


「……で、どうなんだよ」
「もう、ここまでしといてわからないの?」
「そういうことじゃなくて。の口から、ちゃんと聞きたいんだよ」


答え?そんなのもちろん、


「イエスに決まってるでしょう?」






条件幸福論




[2009/04/14][title by 星が水没]