「さんはさ、俺のこと嫌い?」 俺がそう彼女に聞くと、彼女はきょとんとした顔で「どうして?」と聞き返した。質問を質問で返さないでよ、返答に困るじゃん。だいたいさあ、俺がいいたいことわかってるくせにあえて言わせるなんて、さんって意地悪だよね。可愛い顔しておいて俺の事いじめて楽しんでるの?本当にそうだったら趣味が悪いと思う。けど、嫌いになれない。 「オリジナルじゃないから」 口に出すのを何度か躊躇って出した声が、鏡に跳ね返ったみたいに自分の元へ帰ってきてぐさりと刺さる。なんだか自分で自分を傷つけてるみたいだ、胸の奥がズキズキする。質問したのは俺からだけど、こんな風に答えさせるさんはひどい。ひどいけどやっぱり嫌いになれない。本当に厄介だ。 「それと、できそこないだから」 俺たちは、派生という位置にいるバグだ。オリジナルは自分中で生まれた「いらないもの」を無意識のうちに捨ててしまう。それが育って形になるのが、それ。バグはゲームなどにも発生するけれど、ボーカロイドの中から生まれるそれはもっと厄介。なんせ意識持ってるんだから。歌も歌えるけどやっぱり本物には劣るし、それ以外にも何かしら劣化していて扱いにくい(音程とか感情とか)。ウイルスじゃないだけまだマシ、って感じだ。 「えっと、ごめん、さん。これ冗談。おれが、いったこと、わすれて」 自分で聞いといてなんだ、って思う。けど、聞きたくない、さんの俺を否定する声。派生を嫌うマスターもいるって聞いた、酷いときは本物ごと返品、交換をするとか。さんは優しいからしないだけなのかも。優しいから、「嫌いじゃないよ」とか嘘くらい吐くかもしれないけど、たぶん嘘かどうかなんて声の調子ですぐわかる。ミクの一部だった俺は、たぶん出てくるときに一緒にミクの持ってる感情もコピーしたのかもしれない。好きなんだ、すごく。まだ出てきて数日なのに、心の中がさんでいっぱいなんだ。さんの紡ぐ曲をたくさん歌いたいって思うし、捨てられたくないって思うし、一緒にいて楽しいとか嬉しいとかそんな感情に溢れてる。だっせー、元が女だからすぐ泣きそうになってやんの。此処のミクは泣き虫なんだろうか。そう思った瞬間、何やらふわっと甘い香りが俺の上に降ってきた。「よしよし、泣かないの」と言いながら俺の背中をさすられる。頭を上げると、細い肩が顔にあたった。 「馬鹿ね。わたしは嫌いだなんて一度も言ってないじゃない。態度にも出してないつもりだけど」 ふわふわしてて掴みどころがなくて、ずっと笑ってるような人だけど、嘘は吐いてないことくらいわかる。悔しいながらもその肩にしっかりとしがみついている自分がいて、恥ずかしくなった。「君のそういう、卑屈なところもちょっと音痴なところもやさしいところも、全部ぜーんぶミクちゃんと同じくらい大好きなんだから」その言葉に、俺の中で元々ミクの中から持っていた感情とは違うものが芽生え始めていたのは、俺はまだ知らない。 システムフェイクエラー
[2009/08/09] |