日ももう落ちたっていうのに、は真っ暗な部屋の中で一人、ベッドの上でうずくまっている。泣いているのかな、と思って近づいてみたけれど肩は震えていなかった。「マスター」僕が声をかけてもは返事はなし。ただずっと俯いて、ぼうっとしているだけ。僕は続けて、マスター、マスター、と声をかける。すると苛立ったようなの声が僕に突き刺した。


「出てって。一人にしてよ」
「…こんな状態のマスターを放っておけないよ」
「……言うこときいて」


いつもは従順な僕だから、言えばちゃんと従うと思っていたのだろう。の声はさらに苛立って、震え始める。早く泣いてしまえばいいのに。泣いて、心の中にいるあいつを全部吐き出して、忘れてしまえばいい。ほら、小説とかでよく言うじゃん。涙で想い出も苦しさも愛しさも全部流すとか、そういうの。だったらさっさと垂れ流して、あいつがいなくなった時間に、世界に、慣れてしまえばいい。そんな風に思ってることとは裏腹に、僕はに、「泣かないで」と言っていた。は「泣いてなんかない」と言っていたしそれも間違ってはないのだけれど、流していないだけで胸の中はたぶん涙でいっぱいだから、こちらも間違ってはないだろう。僕は図々しくの隣に座る。きし、とベッドの音が鳴った。は僕の方を見つめる。「マスターが悲しい顔してるのに、放っておけるボーカロイドなんていないよ」放っておけないのはが僕のマスターってだけじゃないけれど。僕は言いながら、のまなじりに手を伸ばし、触れる。拒否されるんじゃないかと思ったけれど、は大人しくしていて安心した。それからはち切れたように目を張っていた涙の膜が壊れて、一気に水が落ち始めた。これには少し驚いたけれど、そんな顔を素直に僕に曝け出してくれたことに嬉しさも感じた。


「…泣き虫だね、マスター」
「違うよ。泣いてるんじゃないよ」
「泣いてるじゃん。ねえ、マスター。我慢する必要なんてないんだよ」


一生懸命手のひらで涙を拭くようにこすりつけ、出てくる涙を必死に止めようとしている。僕はの手を掴んでその行為をやめさせた。は一瞬動きを止めた後に、「れんの、ばか」と震えたか細い声で言い、また目を水でいっぱいにして、僕に掴まれてない方の手を伸ばして僕に触れた。そうしてそのまま僕の方へと寄ってきて、肩に顔を疼くめる。僕は肩を抱きながら、「マスター、」と何度も呼んだ。いいんだよ、それでいい。今だけはあいつのために泣くことも許してあげるから、いっぱい、いっぱい泣いてしまえばいい。たくさん泣いて、もういなくなったあいつのことは忘れちゃえばいいよ。僕がいっぱい優しくしてあげる、どんなに突き放されても追いかけてあげる。心にぽっかりと開いた穴を僕が埋めてあげる。そうやって心の中にいたあいつを追い出して、僕でいっぱいにしてしまえばいい。また涙を落とす日が来てもそれは僕のためのものになればいい。あいつのことなんか忘れて、いつか僕を好きになってよ。だってさ、そうじゃないとあいつを消した意味がないだろ?








ぼくのはいつだって






穴だらけの欠陥品




[2009/05/06][title by ROMEA]