「タカヤはどうして西浦に行っちゃったの」


さんがブランコを揺らすたびにギコギコと少し錆びた鎖が悲鳴を上げる。「私タカヤと一緒がよかったなー」なんて言いながら足を振り上げる。キィキィギコギーコ。ブランコの音がうるさい。


「俺だって、さんと一緒の方がよかったっす」
「タカヤって結構素直だよね、そういうとこすきだなー」


俺はそういう、さんの子供っぽいとこすきですけど。さんが足を揺らすとブランコの振りが大きくなっていく。スカートで立ち漕ぎなんてしたらパンツ見えますよ、と言ってやると、夜だから誰もいないじゃん、と単純な言葉が返ってくる。俺がいるじゃないっすか。わかってないですよね、さんって。


「…さんはどうして武蔵野に行ったんすか」


さんは俺の方を向いて、漕いでいる足を止めた。力を失ったブランコはまだ揺れているままだが、だんだんと速度を落とす。まだ揺れている最中で、さんは足を折ってブランコの上に座った。一瞬スカートがめくれて白いの見えてしまったが、当の本人は気づいていないようだ。つーか、さっきまで靴がその上に乗ってたんだろ、汚れるぞ、服。


「タカヤが来ると思ったから」


行くわけねーだろ、と独り言のように言うと、さんは俺の声音で理解したらしく、そうだよね、と苦笑していた。当たり前だ。たとえさんのいるところでも元希さんのいるところなんか、誰が行ってやるかっていう話だ。それに西浦に行ったからって、別に後悔はしているわけではない。俺が言い続けると、さんはうん、うん、と小さく呟いていた。そして揺れていたブランコが止まると、もう一度足を前後に動かし始める。


「私はしてるよ」
「……」
「タカヤと一緒がよかったもん。西浦なんて予想外だし、何のために元希との腐れ縁を延長したと思ってんの」
「それは俺のせいじゃないっすよ。さんが勝手にやったことです」
「相変わらずの減らず口、なまいきー」
「それに」


こうやって偶然逢えてんだから、後悔することなんかないっすよ。さんは揺れてるブランコから急に飛び降りる。だから、それスカートでやっちゃ見えるだろ。そんな事注意する暇もなくさんは怒った風にずかずかとこっちに歩いてくる。手には拳が作られていて、俺の真ん前に着くと、「あのねえ!」と怒声を上げながら俺の襟元を掴んだ。


「偶然なわけ、ないでしょ、バカヤ!」
「…は、なんすかいきなり」
「西浦からタカヤんちまでの通学路張ってたに決まってるじゃん!」
「決まってるって、それストーカーみたいっすよ」


さんは顔を真っ赤にして、わかってると声を荒げながら掴んだ襟元を引き寄せた。それから柔らかいものが口に当たった。それは本当に一瞬ですぐに離れてしまったけれど、顔がゆでたこなさんとの距離は近いままで、俺の目いっぱいに映るさんの目は少しだけ潤んでいた。襟元を掴んだままの手は震えていて、パッと突然離されると同時に、近かった顔も離れていった。


「シニアの時からずっとそう。元希を口実に逢いに行ってたのに、全然気付かないんだもん」
「そりゃあ、元希さんの彼女だって思ってましたから」
「…タカヤって、試合中は色々鋭いみたいだけど、こういうことには鈍いよね」


鈍感なのはさんも一緒だ。





      理 片隅




       の



[2009/03/23][Thanks 50,000!!][氷月蓮さんへ!]