「ん」
「……なんですか、これ」
「見てわかるでしょ?ダッツよ、ダッツ」
「や、ダッツは見てわかるんですけど。いつもは『高いかららめぇぇ!』って言って買ってくれないじゃないですか」
「誕生日プレゼントに決まってるでしょ。つーかそんなブリっ子みたいな言い方してない。さりげなく妄想混ぜんな」


マスターはそう言って俺に無理矢理ダッツの入った袋を押しつけた。中に入っていたのは二つぽっち(でも結構高い)の俺の大好物のダッツ。た、誕生日プレゼントですか…誕生日、…誕生日がダッツってなんか虚しいんですけど。心がこもってないというか。いや、嬉しいんですけどね!普段なら食べられないダッツを口いっぱいに頬張れるっていうのは!だけどなんだか寒々しいというか、悲しいというか。手作りのものがいいとかオリジナル曲がいいとかそういうわけじゃないんだけど、別に買ったものでもいいんだけど。なんだか、「カイトの為に一生懸命考えたんだよ!」じゃなくて、「カイトならアイスだろJK。あっさり即決したよ、ラッキー!」みたいな軽いノリ。


「あれ、マスター、何か作るんですか?まだ夕飯には早いですよね?」
「んー。バレンタイチョコ」
「え、この前も作ってたじゃないですか?」
「数が足りなくてさ。ホワイトデーに作って返すのも面倒だし」
「…そういえば、マスター。俺へのチョコはないんですか」
「だから、ダッツのチョコ味っぽいの買ってきたでしょ」


確かに中身はバニラ味とバナナチョコレートクッキー……。あれですか、バニラが誕生日プレゼントでチョコがバレンタインってことですか。ちょっと高いけれど作る手間が省けてラッキーな代物。なんてお手軽。なんて投げやり。なんて放置プレイ。


「…マスター酷いですうううう!!!」
「ちょ、煩い。ツバ入るでしょ」
「ボーカロイドなので唾じゃなくてオイルです!!」
「なお悪いわ!」
「今はそんなことどうでもいいでしょう!それより、なんですか俺の扱い!」
「別にいつものことでしょ」
「それにしたって…!いつもいつもマスターの髪の毛とかしたりパンツ干したり風呂の掃除も部屋の掃除も全部俺がやってて、マスターが出しっぱなしの漫画とかしまったりパソコンの中身の整理だって全部俺だし、あ、アイスは大好きですけど、もうちょっと俺のこと考えて、気持ちを込めてチョコとかプレゼントとか欲しいんです!」


マスターはハイハイとかなんとか言って聞き流しながらチョコレートを湯銭にかける。全然聞いてくれない。ヘラで溶かしながら混ぜる。マスターはこちらに気をかけてもくれない。すっかり作ることに夢中になり始めたマスターは、「ハイハイ邪魔だからどいてー」と俺を台所から追い出した。…マスターにとって俺ってなんなんだろう。ソファーに座って適当なテレビを見ながらダッツを一口ずつ頬張る。バナナチョコ味のダッツは、いつも食べてる普通のアイスよりも美味しいはずなのに、何か物足りなかった。






「何暗い顔して食ってんのよ。あげた側としては気分が悪いじゃない」
「マスターが悪いんですー」
「…ハァ。食べる?」
「いらないです」


いつの間にか出来上がったらしいお菓子を俺の方に差し出している。そんな、他人の為に作ったものの余りなんていらない。ぷいっとそっぽを向いたら、マスターはため息を吐きながら、「じゃあ私にどうしろって言うのよ」と不貞腐れている。


「……マスターの友達は、ずるいです」
「…は?」
「だってマスターが手間暇かけて作ったものを貰えるんでしょう?俺みたいに『カイトだからアイスでいっか』っていうお手軽さとは違うでしょう?」
「殴るわよ」


殴られるのは嫌だけど、本当のことじゃないですか。だいたい、マスターは俺に対しての扱いがいつも酷すぎます。もうちょっと優しくしたってバチは当たらないと思うんですけど、ねえマスター!マスターは呆れたような怒っているような表情で、ばっかみたい、と独り言のように言葉を放り投げた。


「…何味がいいか散々悩んだのに。カイトなんかもう知らない」
「え」


思わず振り返ると、マスターが涙目でこっちを睨んでいてめちゃくちゃかわい…じゃなくて、ずどーんと罪悪感が背中にのしかかる。


「わっ、ま、ままますたー!!泣かないでくださっ」
「泣いてねーよバカイト。こっちみんな」
「口悪いすぎです!女の子なんだからっ」
「るっさい」


マスターは右手で拳を作るとガツンと一発俺の頭に振りおろす。痛いですマスター、そんなに強く殴ったら壊れます!文句を言ってもぼかぼかとマスターは殴り続ける。といっても痛かったのは最初の一発だけで、後は力もなく振りまわしているだけで当たっても全然問題なかった。「あの、ま、ますたー、…ごめんなさい」腕を受け止めてそう声をかけると、マスターは大人しくなった。


「…じゃあ文句言わないで食いなさいよ」
「でも、これマスターの友達の余りなん」
「余りなんて、一言もいってない」
「え」
「何勘違いしてんのかわかんないけど。わざわざ作ってあげたんだから、食わないとまた殴るわよ」








隠しビター




[2009/02/23][Happy Birthday!!]