硬くて冷たいコンクリートの上で、わたしは何で転がってるんだろう。わたしの記憶は、放課後、帰るわたしを引きとめる日野までで止まっている。まだ夕方だったはずなのに、わたしの周りは星や月が綺麗に照らす夜だった。月明かりって意外と明るい。屋上ってこんなに景色がよかったのね、知らなかった。わたし一応優等生って設定で過ごしてるから、立ち入り禁止の屋上に来ることなんて滅多にないし。…ってアレ?なんでわたし、普段は絶対来るはずのない立ち入り禁止の屋上で悠々と転がってるの?考えようとすると頭がぐあーんと思い切り鐘に突かれたみたいに振動する。うーん、不思議だ。とりあえず起き上がってみようと手足を動かしてみると、動かしているつもりなのに全く持ち上がらない。なんだこれ。なんで体がこんなに重たいの?なんでなんで 「お、気絶してねえ。すげーな、お前」 「…新堂?」 わたしの上に突然影が射しこんで、月明かりが逆光になって顔はよく見えなかったけれど声ですぐわかった。うちのクラスの不良でツンツン頭で意外と常識的なとこがある新堂誠だ。って、こんな夜の学校おまけに屋上をウロウロするようなやつが常識的なわけないか、訂正非常識。でもまあ、こんなやつでもこんな時にこんなところへ来てくれたのはラッキーだ。わたしは表情のよく見えない新堂を見上げた。 「あのさー、体が動かないんだ。起こしてくれない?」 「は?んなこと俺がするわけねーだろ」 「…少しは優しくしないと女の子にモテないよ」 わたしがいくらそう言っても、新堂は手を貸してやろうともしない。ちくしょう、使えないな!こいつ絶対モテない!顔は悪かないけど怖いし、性格も悪い!そう言ってやると、んなことどうでもいいとでも言うように「へえ、まだ元気あんだな」と全く関係ないことを口出してきた。こいつ、頭も悪いのか。いい加減温厚なわたしも怒るぞ。…わたしが怒ったところで、この喧嘩番長な新堂にとってはわたしなんてひとひとねりだろうけど(そういやこの前も喧嘩で相手半殺しにしたとかしてないとか)。コツコツコツ、と屋上のドアの向こうから足音が聞こえた。助けが来てくれた!これで新堂なんかに頼らなくても起こしてもらえる。音は新堂にも聞こえているらしく、新堂はドアの方を見ると頭をかきながら舌打ちをした。 「もう来やがったのかよ」 「…ハァ?何その来ることわかってた的な発言。もしかしてこれから決闘とか?喧嘩とか?屋上ってそんなに喧嘩しやすいところなの?普通体育館裏じゃない?」 「悪いな、」 「ちょ、マジで?わたし動けないんですけどー。巻き添えはごめんなんですけどー」 「でも福沢にいたぶられて殺されるよりはマシだろ」 …は?フクザワって誰よ。っていうかさっきからどうも新堂との会話が噛みあわないのよね。そもそも最初に言ってた「気絶」の意味も、今言ってる「殺される」の意味も全く理解できないんだけど。なんでこれから新堂と喧嘩起こす相手がわたしを殺さなくちゃいけないの。わたしの疑問を余所に、新堂は「アイツ、お前のことそうとう嫌ってたしな」と続ける。アイツってフクザワって人のこと?わたし知り合いにそんな人いないんだけど。それから新堂はドアの方に向けていた視線をわたしに戻す。と、同時にカランと乾いた音がコンクリに響いた。動けない体の代わりに必死に目玉を動かしまわって、やっとみれた新堂の右手にはしっかりと金属バッドが握り締められている。新堂はそれを思いきり振り上げると、なんの躊躇いもなく振り下ろした。あ、なんかこれデジャヴ。 わたしは命を狙われている。わたし以外が全員鬼でわたしが捕まったら殺されるというスペシャル特典付きの鬼ごっこに、なんで参加することになったのかはわからない。っていうかさ、鬼が六人もいてしかも皆武器を持ってるとか、どう考えたってわたしにハンデありすぎじゃない?追われて殺される恐怖に染まった顔を見るのがあいつらの楽しみらしい、なんて悪趣味な!おかげでこっちは気が狂ってしまいそうだ。ない脳味噌を働かせて普段なら絶対動かなくなる足を必死に走らせて、辿り着いた場所は屋上だった。どうせ立ち入り禁止なんだし、熱くなった体と混乱している頭を冷やしながら休むには絶好の場所ね!月明かりだけが妙に明るく照らしていて、なんだかその神秘さを見ると今起きていることが全部嘘のようだ。と、そのときわたしの影を別の影が覆った。ヤバイ、此処にも追手がいたのか!そう思ったときは遅くて、振り返ると同時にわたしの視界は金属バッドでいっぱいになった。 グチャ。 「お前の事、嫌いじゃなかったぜ。…もう聞こえないか」
空翔ける
星の死骸 [2009/02/11][title by alkalism] |