「赤也ー、エビフライいるー?」
「いります!」


エビフライの尻尾をつまんで、赤也のお弁当の蓋の上に移してやると赤也は嬉しそうに「あざーっす!」と運動部らしい元気な返事をした。あー可愛いなこいつ。なんて思っていると、赤也とは反対側の隣に座っていたブン太が「なんで赤也なんだよ。いらないんだったら俺が食うのに」と言っている。相変わらずブン太は食い意地が張ってるなあ。別にブン太でもよかったんだけど、ブン太は「おー、サンキュ」とだけ言ってすぐに口に放り投げてしまうから反応がつまんないのだ。どうせなら赤也みたいなリアクションの方が、こっちもあげがいがあるって。赤也はそんなブン太の様子を見て、蓋を持ち上げていいだろ、と自慢している。


「赤也うっぜー」
「先輩ほどじゃないっす」
「お前なー、そういうこと言ってると…」


ブン太が蓋に向って手を伸ばした瞬間、ひょいっと赤也は予想してたみたいにブン太の手を避けた。そもそも二人の間に私がいるから、ブン太もすぐは取れなかったんだろうな。赤也は得意げな顔で、その口いっぱいにエビフライを頬張った。エビフライごときで大げさな、とも思うけど 、やっぱりそうやって喜んでもらえると嬉しいなーと思ったり。エビフライを食べ終わった赤也は、そのまま抓んでいた尻尾をお弁当の蓋の上に置いた。


「赤也って尻尾は食べない派?」
「あー…ちょっと魚の骨みたいで苦手なんで。…先輩は食べるんスか?」
「しっぽは好き。ってことでもーらいっ」


まあ、もともとは私のものだったけど。赤也が食べるようだったら別によかったんだけど、食べないんだったらもらおうかなとは考えていた(ちなみにブン太は食べる派)。エビフライのプリプリとした触感はどうにも慣れない。口に突っ込んだ尻尾は硬くて、噛むたびにパリパリと音が鳴る。うんうん、やっぱりこれがいいよねえ。ふと横を見ると、赤也は少し頬を染めながら自分のご飯に齧りついていた。


「何、赤也くんは間接チューとか考えて照れてるわけ?」
「か、かかかんがえてないっすよ!」
「図星か?」
「あらあら、赤也くんはお年頃なんでちゅかねえ」
「丸井先輩は黙っててください!」


いつのまにかさっきとは立場が逆で、ブン太が得意顔で赤也を見下すようにからかい始めていた。赤也は顔を染めながら否定してるけど、説得力ないよ。そんな顔してると、もう認めたようなもんじゃないですかね。うーん、でも間接チューくらいさ、私たちももうそんなに子供じゃないんだからこだわらなくてもいいかなーって思うんだけど。だって、「ブン太とは毎日してるようなもんじゃん」食べかけのパンとか飲みかけのジュースとか普通に交換してるし。ブン太があーそういえばそうだなと頷いて、ジャッカルが地雷踏んだなと言って、…赤也の目が一瞬点になって、それから今度はわなわな体を震わせながら拳を握って「何やってんすか、先輩!!」とブン太に詰め寄っていた。


「人の彼女に手ぇ出さないでください、仁王先輩じゃないんだから!」
「それは仁王に失礼でしょ」
「それに手は出してねーぜ?」
「ただの間接チューだし」
「赤也がお子様すぎるんだろぃ?」
「お前ら、からかうのもいい加減にしとけ」


ジャッカルが溜息を吐いたのと同時に、赤也ががしっと私の肩を掴んで無理矢理そちらの方向に向かせられる。「ただの間接チューじゃないっす!」と、彼は怒っているようだ。うーん、でも毎日普通にしてることだしなぁ。私にとっては「ただの」なんですよ。説明しても赤也は全く聞かず「それでも駄目」の一点張りだった。ヤキモチは素直に嬉しいと受け取れなくもないけれど、シツコイ男は嫌われるのよ、赤也くん!私はまだ何か言ってる赤也のネクタイを引っ張って、思いっきりその唇に齧りついた。後ろで「おー」というブン太の歓声が聞こえる。


「間接チューよりレベルアップ。よって、この件はチャラね」


あ、そうだ喉乾いたからなんかちょーだい。放心状態の赤也を放っておきながら、そう言ってブン太の飲みかけジュースを受け取る。すると、我に返った赤也に奪われた。チャラって言ったのになあ。










ひとりじめ
アフターヌーンを


(あ、先輩何やってんすか、そういう意味じゃないんですよ!)(えーいいじゃん、これでチャラにしよーよ)(こんなの…先輩に飲まれるくらいなら!(ゴクゴク))(あーそれ俺の!!何勝手に飲んでんだよ!)(大丈夫よ、ブン太。また買ってくるから。…ジャッカルが)(俺かよ)




[2009/02/02][Thanks 50,000!!][かゆへ!]