くだらないバラエティー番組を見ながら、テーブルに肘をついてそこに頬を乗せる。もう片方の手はテーブルの上に置いてあって、トントントントンとずっと同じ運動を繰り返していた。時々時計の方を見ては、溜息を吐いてイライラしながらまたテレビに視線を戻す。マスターのバカ、遅くなるなら言ってって何回も言ってるのに!また飲み会で、どうせ酒を飲んで、俺のことなんか忘れてるんだ。あーむかつく!こっちはこんなに、心配してるのにマスターはきっと今頃友達やら同僚やらと一緒に飲んで楽しんでるんだ。俺のことなんかちっとも気にしないで。そう思うとほんとに怒りが沸いてくる。せめて、遅くなることくらい連絡してくれればいいのに。連絡することも忘れるくらい楽しんでるって思うとやるせない。こっちは一日中っていいほどマスターのこと考えてるのに、理不尽で不公平だ。


玄関の方でガチャガチャと鍵をはめ込もうとしている音が聞こえた。どうせ酔ってうまく鍵がはまらないんだ、いつもそうなんだから。俺はすぐさま立ち上がって、玄関の鍵を回した。開けると、案の定顔を真っ赤にさせたマスターが鍵と鞄を持ったまま突っ立っている。俺がキッと睨むと、あはは、とマスターはバツが悪そうに笑った。あはは、じゃねーよ。


「今、何時だと思ってんの」
「ごめん。ちょっと、誘われちゃって」
「連絡しろって言ってんじゃん!」


あーうーん、そうだねごめん忘れてたー。マスターの気の抜けたようなその声に脱力する。なんだか全然、悪びれた様子には見えない。「でも、レン。中学生がこんな時間まで起きてちゃダメだよー。いくら私が心配でもさー」なんて言って誤魔化してるマスターにカチンときた。中学生じゃねーし、十四だけど!「心配なんかしてねーよ」と言い返すと、ふうんと何かを含んだように返されて余計にムカついた。マスターは中に入り、俺の前をマフラーをほどきながら通り過ぎる。瞬間、ふわりと知らない匂いが漂った。


「マスター」
「なに?…あ、やっぱり中はあったかいねー。外寒さは異常だわ、異常」
「…男物の香水の匂い、すんだけど」


飲み会で煙草やら酒やらの匂いをつけてくるのは、もうお約束で慣れたものだった。けど、香水付けてくるような男も、今日はいたわけ?いつもの口うるさくて愚痴ばっかり言うっていうハゲのおっさん上司じゃなくて?何してんの、マスター。俺に心配ばっかりさせといて、男の人と飲んできたわけ?俺がイライラしているのにも気づかずマスターは、「えーそんなに匂う?」と言ってくんくんと自分の腕に鼻を近づけていた。何それ、俺は全く眼中にない、みたいな態度。


「匂い、つけるようなことでもしてきたわけ?」
「ちょおーっとね。酔った勢いで抱き」


つかれちゃって。言い終わる前に、腕を掴んで真っ直ぐマスターを睨むと、マスターは眼を見開いて動きを止めた。それからマスターは少し考えてから、何かひらめいたみたいで目を輝かせた。それから顔をにやにやさせながら、「もしかしてレンきゅん、やきもちですか?」なんて言ってきた。その言葉にぴくりと眉が自然に動いてしまって、それを見たマスターはやっぱりねえと一人納得しながら、相変わらず口元は上がっているままだった。「そっか、そっか、レンきゅんはマスターを取られて寂しい年頃なのね〜。嬉しいなぁ」なんてからかい始める。マスターの、俺を相手にしないような態度がいちいち癇に障る。


「誰がやきもちなんかっ。マスターなんかに引っかかった男がかわいそうだな、って思っただけ!」
「へえー。じゃあそういうことにしといてあげる」


大人ぶった態度で、俺をなだめようとするのがムカつく。全然相手にされてないみたい。わかってんの、マスター。俺、確かにボーカロイドだけど、ロボットだけど、ショタとか言われるけど、よくマスターにも可愛いとか言われるけど、性別は男って設定されてるんだよ?それなりに力は強いし、十四だけどマスターが思ってるほど子供じゃない。手首を掴んだまま、狭い廊下の壁に腕を付いた。マスターは逃げられない。「やきもちじゃ、ない」そうだ、やきもちなんかやかない、こんなマスターを相手にするやつなんかにやきもちなんかやくもんか。ハイハイ、わかってるから手を離そうね。こんな状況でもなお、軽口を叩くマスターにイライラしたからそんな言葉無視して、マスターに顔を近づけた。








 煙




   の向こうに








    たいが





[2009/01/25][Thanks 50,000!!][燐さんへ!]