「おはようございます、マスター!今朝はカイト特製スクランブルエッグですよ!」
「いってらっしゃい、マスター!今日も頑張ってくださいね」
「おかえりなさい、マスター!夕飯はカレーですよ、ほっくほくです!早く食べましょう!」
「あ、そうだ。マスター。お風呂、沸かしておいたんで、食べたら入ってきちゃってくださいね」
「マスター!」
「マスター、マスター!」


毎日のように「マスター、マスター」としっぽを振りながら(幻覚)私のもとへ寄ってくるカイトは、今日も同じように家事をしてくれている。おかげで汚かった私の部屋はピッカピカだ。此処最近はずっとこんな感じで、カイトはすっかりボーカロイドというよりも私の家のお手伝いさんみたいな位置に定着してしまって、私も当たり前のようにカイトに起こしてもらって、カイトの作ったご飯を食べて、洗濯物も掃除も彼に任せてしまっている。もうなんだか普通のことのようにも感じるけれど、これって本来の関係とは違うんだよね。友達に言ったらすごく驚かれて、「うちのカイトそんなことしないよ!?羨ましいー」と言われた気がする。…まあ世の中にはいろんなカイトがいるってことで。私はそれなりに今の生活を気に入ってるし、カイトも結構楽しそうにやっているからいいかなあ、と思ってる。今だって、ソファーの横で、口笛を吹きながら私の服を畳んでるし(最初は下着洗われるの嫌だったんだけど、なんかもう慣れちゃって何とも思えない。慣れって恐ろしい)。


「カイトさぁ、家事、好き?」
「はい、好きですっ」


カイトは畳んでいる手を休めて、わざわざ私の方へと向いてにっこりと笑って言った。カイトは私が話しかけると何をしていても絶対、笑顔を輝かせて私の方へと向いてくれるのだ。声だけの空返事なんて一度もされたことはない。「そっか」と返すと、カイトは止めていた手を働かせ始めて、畳みながら「マスターは、」と言い始める。ん、歌は好きですかとかDTM好きですかとかそういうのかな。


「俺のこと、好きですか」
「うん好――…はい?」


勢いで好きって言おうとしてしまったけど、質問が予想していたものと違ったから驚いて聞き返してしまった。カイトは「だから、俺のこと好きなんですか」と少し拗ねたような表情で口をとがらせながら言いなおした。まあ、カイトのことは好きだけど。っていうか好きじゃなきゃ買わないし。それは買った当初にも言ったことでもある。「うん、まあ、好きだよ」改めて言わされるのは恥ずかしくて、誤魔化そうとも思ったけれどうまい言葉が見つからず、そのまま答えた。ただちょっと恥ずかしくて語尾がだんだん小さくなってしまったけど。


「本当ですかっ!?」
「う、嘘なんか吐かないよ」
「なら、新しい曲、作ってください!」


カイトは身を乗り出して、キラキラした目で私を見つめる。新しい曲、かあ。そういえば最近は家事ばかりで全然歌わせていないような気がする。やっぱり、彼もボーカロイドだし、歌わせないとストレスとかたまっちゃうのかなあ。そう考えながら、頷くとカイトは洗濯ものを握りしめたままガッツポーズをして、喜々とした表情を浮かべている。カイトが嬉しそうなのを見ると、私もなんだか嬉しくなり思わず顔がにやけてしまった。


「私、てっきり歌よりも家事が好きなのかと思ってた」
「え、違いますよ!歌の方が好きです!」
「そう?でも最近ずっとそれ、やってくれてるし」
「これは、」


カイトは少し決まりが悪そうに、膝の上の洗濯物を掴んでいる。「これは、お手伝いをして少しでもマスターの負担が減れば、もっと歌う時間が増えると思ったんです」そう言うカイトの顔は今にも泣きそうで、「なのに、最近マスター全然っ…もう俺の事、嫌いなの、かと」ええええ、ちょっとなんでそういう発想にいくのっ!?さっきも云った通り、私カイトのこと好きだよ!急いでカイトの方へ寄り添って、「ないない!」と全力で否定した。「本当ですか」と少しだけ落ち着いた様子のカイトが小動物のような雰囲気をかもしだしながら聞いてくるものだから、「本当だってばっ。私の言うことが信じられないの?」と半幅逆ギレ気味に言い返した。カイトは少し笑って、止まっていた手をもう一度動かし始めた。


「いつに、してくれますか」
「え、…何が」
「調声です。…してくれるんでしょう?」
「そうだなあ。……じゃあ、今日やろっか」
「本当ですかっ!?」
「私のことが信じられない?」


さっきとおんなじことを言われたので、もう一度同じ言葉で返すとカイトは首を振ってから微笑んだ。「信じられます。…大好きです、マスター」








情けないぼくにも





明日をちょうだい




[2009/01/18][Thanks 50,000!!][みゆきへ!]