瞼がだんだん重くなってきて、意識がぼうっとし始める。そのたびに頭をぶんぶん横に振って、目の前のテレビを睨むように見た。それから何度も時計を見ては、溜息を吐いてまたテレビに視線を戻す。マスター、まだかなぁ。いつもなら、こんなに遅い日はもう寝ちゃってることが多いんだけど、今日は特別だから絶対起きてマスターを待つって決めてるんだ。正確には特別なのは明日だけど。肩にこつんと何かがあたる。横を見てみると、あたしと同じように起きていたはずのレンが、あたしに頭を預けて寝息を立てている。 「レン、れーんー」 「……」 「一緒にマスター待つんじゃなかったのー?」 「……」 「(だめだこりゃ)」 もう、あたしだけでもマスターを待ってやるんだから。テレビはチャンネルを回してももう面白いものはやっていなくて、電源を消した。代わりにポケットからMDを取り出して、イヤホンを耳につけて再生ボタンを押した。これはマスターがくれたプレゼントだ。クリスマスとかそういうイベントが大好きなマスターがサンタの真似をしてクリスマスに枕元に置いたものだ。まだ声が入っていないインスト曲は、歌うのが楽しみで思わず顔がにやけてしまう。生まれて初めて貰ったオリジナルだもん、しょうがないよね。でもやっぱり聞いてるうちに眠気が舞い込んできて、頭がぼうっとして、右から左に音が抜けていく。何度も頭振って、ほっぺたを引っ張っているけど、どんどん、どんどん、体が重くなっていく。首元に感じるレンの髪の毛の感触も、足に当たるストーブの熱風も、だんだんと遠いものになっていく。視界は真っ暗になっていった。 ☆★☆ 何か柔らかくて暖かいものを感じて、うっすらと目を開いた。するとテーブルの横に座ったマスターは牛乳を片手にテレビを見ていた(お風呂上がりに牛乳を飲むのはマスターの日課だ)。深夜のテレビはあまり面白いものがなく、ぽちぽちと暇そうにチャンネルを変えている。 「ますたー?」 「あ、ごめん。起こしちゃった?」 「ううん。…マスター、おかえりなさい」 あたしがそう言うとマスターはにっこりと笑って、ただいま、と言った。ふと、あたしとレンを包むように毛布がかかっていることに気づいた。これ、マスターがかけてくれたのかな。…マスターが帰ってくるまで起きてるつもりだったのに、いつのまにか寝ちゃっていたんだ。 「帰るの遅くなってごめん。でもこんなとこで寝ちゃダメだよ。風邪ひいちゃうし」 「…ごめんなさい」 「ん。…明日は休みだからね」 「うんっ。だ、だからね、マスター。今、…何時?」 マスターは一瞬きょとんとしてから時計をちらりと見て、ああ、と頷いた。それから立ち上がって、ソファーの、あたしの隣、レンが座っているのとは逆の方にぽすっと音を立てて座った。子供にするように、マスターはあたしの頭に手を乗せた。手を頭の上で優しくかき回されて、気持ちよくて、また眠くなってしまう。 「明日じゃなくて、もう、今日なんだね」 「うん」 「誕生日おめでとう。リン」 「…うん」 うん、うん、うん!嬉しくて、嬉しくて、思わずマスターをぎゅーっと抱き締めた。連鎖するようにレンの体があたしによりかかって、少し重かったけど、そんなのもうどうでもよかった。でも嬉しい反面なんだか気恥ずかしい。あたしね、最初にマスターに言ってほしかったの。朝になれば聞ける言葉だけど、早く聞きたかったんだよ。マスターはあたしの頭から手を離すと、未だ眠ったままのレンの方にも手を伸ばして、同じようにしていた。レンもったいないなあ、どうせ明日もう一度言うだろうけど。マスターの冷たい指が、もう一度あたしに触れて、それはとてもくすぐったかった。 連なる夜一時 「ねえねえ、マスター。明日はいっぱい歌わせてね」
「ふぁぁーい」 「いっぱいだよ、ぜったいだよっ」 [2009/01/07][Happy Birthday!!] |