「やっぱりいた」 「……」 さんはこたつで寝転がって、何か言いたげな表情で俺を見上げてる。というよりは睨みつけているという方が正しいかもしれない。うーさむ。俺はスーパーで買ってきた荷物を下ろし、さんの横に座ってもぞもぞとこたつの中に入った。こたつの中で伸ばされているさんの足がこつんとあたると、さんは額に皺をよせて一瞬不機嫌な顔になった。 「…冷たい」 「さーせーん。寒かったんで」 「なんか謝られてる気がしない」 「気のせい」 こたつの中の足が邪魔で伸ばせなかった自分の足を畳んで、こたつの上にある蜜柑に手を伸ばす。うーん、やっぱり冬はこたつに蜜柑だよなあ。外と違って、やっぱり部屋の中は暖かい。せまいアパートだから、熱がこもってさらに。 「よしろー」 「なんすか」 「わたしにもみかんちょーだい」 「はいはい」 「……よしろー」 「なんすか」 「あんた、イブなのにこんなとこいていいの?それとも明日デートとか?」 「彼女いないから明日も暇」 「高校生のくせに寂しいイブねえー」 「そういうさんはどうなの。彼氏さんとデートじゃなかったっけ?」 「振られた」 さんは枕に顔を埋めて、蜜柑を両手でぎゅっと握りしめながらくぐもった声で答えた。…なんとなく、察しはついていたけど本人の口から聞きだしてほっとした。部屋に入るとき、此処にさんが彼氏といちゃついてたらどうしようと思いながらドアノブを握ったけれど中ではそんなことはなくてただ目元が少し赤い彼女が寝転がっていただけで、喜んでいる自分もいたというのに。 「さん、そんなに強く握ったら蜜柑がつぶれるから」 「…つぶしてないもん」 「食べ物を無駄にしちゃ、いけません」 さんの手から蜜柑を取り上げると、さんは蜜柑を追うように手を伸ばしたけれどすぐにあきらめてしまった。結局、枕からは一度も顔をどけずに。そんなに俺に泣き顔見られんの、嫌ですか。息を吐きながら蜜柑の皮に指を入れ、一枚ずつむいていく。そしてむき出しになった実を一つ取り出して、さんの方へ差し出した。 「さん、蜜柑。いらないの?」 「……いらない」 「さっきちょうだいって言ったじゃん」 「…良郎のせいだよ、ばか」 わかってるって。傷口を抉ったことくらい。だけどさ、俺だって同じくらい抉られてるの。さんが俺以外の男を見るたび、恋するたび、全部痛みとなって俺の全身を打ちつけるの。さんは知らないだろうけど。慰めさせてもくれないから、隙をつくこともできない。だから少しくらい仕返ししてやったって、いいだろ。 「さん」 「…」 「夕飯、何がいい?」 「…」 「今日はイブだしなぁ。二人でパーティーでもしよーぜ」 「……。独り者二人で?虚しすぎ」 「いいじゃん。俺、さんといるの、楽しいよ」 「…うん、わたしも」 暗がり の マイドール [2008/12/25][title by alkalism] |