「ー!」 「声でかい!ボリューム小さくして!」 「のがでかいじゃんっ」 悠一郎はそう言いながらフェンス越しに特有の笑顔を見せた。「見に来てたんだなっ」あたしはどうもその笑顔に慣れていなくて、つい「友達に連れてこられて、し、仕方なく」と嘘を吐いた。逆だ。あたし一人で行くのは、どうも緊張してしまうから無理矢理友達を連れ出したんだ。だ、だって応援とかどうやってやったらいいかわかんないし!友達のほうが野球には詳しいから(といっても高校野球には興味はないって、すごく拒否られたけど)、一緒にいたほうが試合の流れとかもわかるしっ。あたしが吐いた嘘はばればれで、隣にいた友達は「違うでしょ」と(あたしが止めているのにも関わらず)あっさりネタばらししてしまう。それから「はもうちょっと素直になりなよ」と言われるけれど、無理だ。 「そ、それで悠一郎は、何の用?」 「別に用ってわけでもねーけどさ。が見えたから、走ってきた!」 あたしもこれくらい素直な人間になりたいよ。でも悠一郎は、まるで飼い主見つけた犬みたいだ。よくもまあ、こんなにも観客がいる中であたしを見つけられたなあ。見つけてくれた嬉しさと、本能的に駆け寄ってきたっていうなんとも言えない恥ずかしさがあたしの中を渦巻く(だって悠一郎ってそこそこ有名人だし…)。心拍数がやばくなってきて、顔が赤くなるのを誤魔化すように「あそ」とそっけなく返してしまった。悠一郎はあたしのその態度には慣れてるから、気にしないでフェンスに手をかけた。それから意気揚々に「な、なっ!今日の俺、かっこよかっただろ?」と聞いてくる。 「自意識かじょ」 「ちょっと、」 自意識過剰なんじゃないの。と言おうとして無意識に口を開くと、友達に肘でつつかれる。何すんの、と見ようとしたら「素直になれ」とでも言うようににらんでくる。う、わ、わかってるわよ。それから目線を悠一郎に戻す。悠一郎のキラキラした笑顔が視界に入ると、やっぱり恥ずかしくなって言えなくなる。出そうとした言葉が喉に引っ込んでしまった。けれど相変わらず友達が隣でじと眼で見てくるし。いつも冷たいようなことしか言えないし、彼女なんだからもっと可愛げがあってもいいと思うんだよね。思う、んだけど、思ってるだけでうまくいかないのが現実。っていうか、そんな簡単に可愛げのあること言えたら、こんなこと考えないよね。うん。とりあえず、どうしよう。目の前のキラキラした悠一郎の目と、とりあえず早く言えよ的な友達の視線があたしに圧力をかける。それからしばらく悶絶した後、ようやく口の中からそれを絞り出した。 「べ、別に、普通。い、いつもどおりだったよ」 友達が「あーあ」とか呆れた声を漏らしている。あたしのが言いたいよ。こんなに後押しされても、素直に言葉を出すことができない自分が恥ずかしい。悠一郎は「そっかー。じゃあ次頑張るっ」と少し残念そうな声を出した。そのまま監督さんの声がかかったので、悠一郎はじゃあなと手を振ってそっちの方を向く。なんとも言えない後悔が押し寄せてきて、あたしは思わず名前を呼んで悠一郎を引き留めてしまった。悠一郎は何も気にしてない様子で、「ん、どーした?」と笑顔で返してくれる。 「あ、あのねっ、悠一郎」 「うん」 「…悠一郎は、いつも、かっこいいって思うよ」 いつも、思ってるから「いつもどおり」なんだよ。いつもそう思うからあたしにとっては「普通」のことなんだよ。そう伝えようとしたけど、それ以上は声が出なかった。あたしにはこれがせいいっぱいだ。悠一郎は「そっか」と照れたように頬をかいた。その頬は少しだけ赤くて、それを見るとあたしまで伝染しそうになった。悠一郎はあとで一緒に帰ろうな、とそれだけ言って今度こそ走り去った。ガシャンと悠一郎が手にかけていたフェンスに今度はあたしがかけて、深呼吸をする。隣の友達がニヤニヤしながらあたしの方を見ていた。 「たまには素直になるのもいいもんでしょ?」 …いいわけがない、心臓が止まりそうだ。 太陽
色づいてゆく [2008/12/07][Thanks 50,000!!][木苺ひゆさんへ!] |