暗い暗い部屋の中に一人でいた。じっと体育座りをしながら、ずっと。胸の中は期待と不安でいっぱいだ。わたしのマスターはどんな人なんだろう。優しい人かな?優しい人だといいな。歌、たくさん歌わせてくれるかな?わたしの見た目が好きだから買うって人もいるみたいだけど、わたしはそれでも嬉しいかもしれない。でもやっぱりボーカロイドだから歌わせてほしいな。どんな風に歌わせてくれるんだろう。明るいポップスアイドル系?それともしっとりとしたバラードかな。カフェ風なジャズとか、激しいロックでもいいな。アニメソング風でもいいかもしれない。変な歌詞の歌だったら、…えっちな言葉じゃなければ喜んで歌うよ。いっぱいいっぱい、マスターの作った曲、選んだ曲、歌いたい。それと、おしゃべりもいっぱいしたいな。マスターは何が好きなんだろう。料理とか、出来るのかな。出来なかったらわたしが作ってあげるのもいいなあ、一応プログラミングはされてるから簡単なものならきっとできるはず。喜んでくれるかな、美味しいって言ってくれるかな。わたしに笑いかけてくれる?あと、マスターとはいろんな思い出作りたいな。家の中でも外でもいい、一緒にいて、一緒に笑ったり泣いたり、たまには喧嘩したり、家族みたいな親友みたいな、恋人みたいな、どれにもあてはまらない関係。メモリにしっかりと記憶して、わたしの中の奥の奥の一番大切な場所に閉まっておくから消えたりしないよ、絶対。消えないように焼き付けておくの。たとえマスターに飽きられて捨てられてしまっても、わたしはスクラップになる直前まで絶対誰にもこのメモリをあげない、それを守りながら壊れてゆくの。だからね、そんな思い出を作りにいくことが、とっても、とっても楽しみなんだ。想像してるだけで自然に笑みが零れてきちゃう。


部屋の外からがさごそと音が聞こえた。何やら騒ぐ声も聞こえる。…これがマスターの声かな?今すぐ飛び出したいけれど、スリープモードのわたしは動くことはできない。マスター、はやく、はやくスイッチを入れてください。あなたの顔が見たいんです、喋りたいんです。たくさんの、たくさんの愛情をください。わたしたちはマスターに注がれた愛情の分だけ、またはそれ以上、歌に乗せて愛を返します。さあ、はやくはやく!




見るローズマリー


そして、世界が開けた瞬間わたしはマスターに飛びついた。「マスター、これからよろしくお願いしますね!」マスターは苦笑いしながらわたしを引きはがし、そして「よろしく」と微笑みながら手を握った。わたしは、このマスターのために生きてゆきます。たとえ飽きられて捨てられてしまっても、全てを忘れて修理されて新しいマスターの元へ行くよりも、誰にも負けないキラキラした思い出と共にスクラップになることを選びます。




[2008/09/07][Happy Birthday!!]