オレンジビターズ、 |
街中に堂々と設けられている怪しげなサーカスの中にある不自然な無人のバー。そこのテーブルの上に、誰が置いたのかわからないグラスが一つ置いてあった。此処のバーはいつもそうだ、バーテンダーもいないのに気づくと飲み物が置いてある、何度も通ってるからもう気にならないけれど。オレンジ色の光を放つその液体は、私を誘うように匂いを発してそれにつられるように私はグラスに手を伸ばす。いつもは、私がアルコール入りのカクテルを飲もうとすると、変なところで常識的な彼らは「未成年が飲むものじゃありません」と言って取り上げていたのだけれど、今は彼らはいない。彼らがまた私にその台詞を言うことはない、これから先もずっと。冷たいグラスに唇をくっつけて、バーで飲むには少し下品だけどヤケ酒でもしているかのように一気に口の中へと吸い込んだ。色々な種類がある中で彼らが唯一共通して好きだと言ったそのカクテルが舌の上で転がる。急に体温が上昇し始めて頭がくらくらし始める、彼らはなんということもなく飲んでいたのにこれは私が子供だからだろうか、単に酒に弱いのだろうか。意識が朦朧とし始めて、この勢いに任せて全て忘れられたらいいのにと思った。彼らがもういないこと、勉強を教えてもらったことも、相談に乗ってもらったことも、一緒に買い物へ行ったことも、彼らと出会ったことも。それでも、私の意識は、彼らを忘れるどころか思いだすばかり。 「…ばかやろー」 どん、とグラスを置いて呟いた。まだ微妙に残っている雫が底の方へと沈んでいく。まるで私の気持ちみたい。どんどんどんどん下へ下へと沈む気持ち。私やっぱりあいつらのこと割と好きだったんだなぁ。他人に対する美意識がまるでバラバラで、ナルシストで、変てこなやつらだったけど根はいいやつだった。まいっちゃうなぁ、こんなに心の中にこびりつくとは。シミみたいで嫌になっちゃう。グラスに残った雫、その一滴すらも許さないと私はグラスを逆さにして最後まで飲み続けた。 だけど初めて飲んだアルコールは、彼らが好きだったカクテルは、涙が溢れて止まらなくなるほど苦かったんだ。 [2008/08/11] |
消えない染み |