「あーめあーめふーれふーれかーあさーんがー」 「古っ」 体育の後、校舎の中へと帰る途中で空から降ってくる雫たちが私たちを濡らし始めた。空は青いまんま、太陽は顔を出したままどこからともなく降ってくる雨。泉は不機嫌そうに空を見上げてる。雨早くやむといいなぁ。私がそう言うと「矛盾してっぞー」と泉が声をかける。いいんだよ、さっきのは雨が降った時につい口ずさんじゃう私の雨ソングなんだから。それから「なんで?」と聞かれた。んん、なんでって何に対しての何で?えーっと。私が戸惑っていると「なんでやんでほしいんだよ」と付け足した。いやいやいや、本来ならあなたが願うことでしょ、泉クン。 「明日試合でしょー。雨でコンディション悪くなったら嫌だもん」 「あー…でも天気雨くらいならすぐやむんじゃね?」 「わかんないよ、そんなこと!もしかしたらこの後急に天気が悪くなって長続きするかもしれないじゃん」 「アホか。山の天気じゃねーんだからそんなすぐには荒れねぇよ」 泉は冷めた様子でそのまま歩き続ける。あのねー、それが明日試合を迎える人の態度ですか。私が前日でこんなにドキドキしてるのに、当の本人がこんなに冷めてるってどういうこと?初めての公式試合だよ?しかも相手は桐青!あの監督さんは自信満々だったけど、やっぱり不安っていうか、負けるんじゃないか、って思ってる。だって桐青って去年の優勝校でしょ?今年出来たばっかりの野球部が簡単に勝てるような相手じゃないよ。こつん、と後ろから頭に何かがあたった。その衝撃で一瞬前のめりになる。勿論、犯人は隣にいる泉に間違いない。 「バーカ。んなすぐには負けねーよ」 「…泉だって、今年は初戦負けかとか言ってたくせに」 「言ってねー」 「言った!抽選会の後に愚痴ってたじゃん」 泉は何度も否定し続けるけれど、私はしっかりとその口から零したものを聞いている。あれから、まだそんな言うほど日にちはたっていないはずなのに、いつの間にこんなに自信がついたのだろう。多少へたれていたって、私が元気付けてあげるつもりだったのに。うーん、監督強し。そう言いあいしていると、頭の上にぽつぽつと落ちていた雫が次第に減っていって、泉の言うとおり、本当にやみ始めていた。私たちに当たる量も少なくなって、当たらなくなる。 「おー、ほんとにやんだ」 「当たりま…え、」 「…ん?どした?」 急に言葉を詰まらせた泉に、不思議に思って私は泉の方を見るけれど、思いきり逸らされた。うお、耳赤い。一体いきなりどーしたのだろうか。おーいいずみー。泉の顔を引っ張ってこっちを見させようとすると(だってどんな顔してるか気になるし)、やめろってすごい拒絶をされた。流石にそこまで拒絶されると軽く傷ついちゃうぞっ。そんなことを思っていたら泉はいきなり自分の着てたジャージを脱ぎだして、ぐいっと私の方に差し出してくる。…はい?ごめんなさい泉さん、行動の意味が分からない。 「これ着てろっ」 「えー、やだよ。暑いじゃん」 「いーから!着ろ!それから、教室戻ったらすぐ着がえろよ!」 「なんで」 「なんでも!」 そう言ったと思ったら、泉はいきなり走り出して、前の方を歩いていた野球部組のところへと行ってしまった。田島が「お、泉顔赤いぞー」とかなんとかからかっていて「るせー」と言い返しながら、じゃれあっている。私がその様子をぼうっと眺めながら歩く。私の肩にかけられたジャージからは、ほんのり泉の匂いがした。 SKELETON
BLOCK [2008/07/08][Thanks 30,000!][桐青/ヘタレ/お天気雨|秋冬さん] |