「隆也さ、昼休み告白されてたでしょ?」




私がからかうように聞くと隆也は特に動揺するわけでもなく「ああ」と頷いた。それから「何、盗み見てた?趣味わりー」と言わなくてもいいことを付け足したので、ちょっとムカついて拳を隆也の方に振りあげたらあっさりと受け止められてしまった。この幼馴染は成長していくばかりで、ちっちゃいころは私の方がいろんなことに勝っていたのに、今は負けて負けて負けまくってしかもその差が広がっていくばかりだ。背だって小学校高学年ではとりあえずなんとか私の方が上だったのに、今じゃ軽々と追い越されてしまっている。別に背が高くなりたいわけじゃないが、こう見下ろされるとムカつく。隆也が頭いいのがムカつく、モテるのもムカつく。




「盗み見なんてしてないもん。私のクラスから見えるの!」
「…へえ」
「何よ、その含み笑い」
「いや、別に」
「……それで?」
「何が?」
「付き合うの?」




内心どきどきしながら聞いていることがばれないように、できるだけ平静を保って隆也に聞く。手に汗が溜まっていくことを知らない隆也は「あーどうしよっかな」なんてことを言っていて、それを聞くだけで胸を抉られるような感覚に陥った。結構可愛かったしなーとかなんとか言ってるけれど私の耳にはところどころにしか届かない。興味本位、本気半分でも聞くんじゃなかった。知らない方がよかったかもしれない。でも、赤くなった女子の顔とよく見えなかった隆也の反応が気になってしょうがなかったんだよ。必死に泣き出しそうになるのを我慢していると、隣でプッと吹き出した音が聞こえた。思わぬ効果音にびっくりして隣で歩いている隆也の方を見ると、口元を手で軽く押さえていて笑っているのを隠そうとしているのだけれど、目が笑っていた。




「な、何笑ってんの」
「だってお前、すげー必死そうだし」
「…別に、必死になんかしてないもん」
「嘘吐くなって」
「吐いてない」




こっちが必死に平然を装っているのに、隆也はそれに気付かないであっさり指摘してしまう。それが悔しくてつい、意地張ってそんなことないっていつも返してしまうけれどたいていは図星なんだ。それすらも向こうには丸わかりなのだから余計に憎たらしい。そういうことがちょっとムカついたので、私は早歩きになって隆也を追い越す。ふーんだ、隆也なんか置いてってやる。「あ、おい!、止ま」ごーん。隆也の声なんかまるっきり無視して、足もとばかりを向いて早歩きしてたばっかりに、私は電柱に突撃。頭がジンジン響く。




「あーあ、だから止まれっつったのに」
「電柱があるならあるって言ってよ!」
「一人で勝手に歩いといて逆ギレかよ!」




だって、だってムカついたんだもん。隆也の背がどんどん高くなって、どんどんかっこよくなっちゃって野球も上手になっちゃって、モテモテになって、どんどん大人になって、遠くへ行っちゃう。あのちっちゃかった頃の泣き虫だった隆也が、彼女なんか作っちゃって。私は焦っているのに、それに気付いても気を使ってはくれなくて。隆也のそういうとこ、私はムカつく、悔しい。


何も言わない私を隆也はずっと見下ろしてて、その視線ですらも気に食わなかった。下から睨むように目線を向けると、隆也はハァとため息を吐いて「行くぞ」と言って強引に私の二の腕を掴んで歩きだす。隆也が手加減なんかしてくれるはずがなく、私は頭に手をあてたまま「いたい、痛いから!」と抗議するが、見事にスルー。何度も言っても聞き入れてくれないので私は諦めて、痛いのを我慢することにした。隆也の目は私の何もかもを見通しているようで、ムカつく。それを逆撫でするように笑いかける口がムカつく。それでいて、私はなんだかんだで隆也を嫌いになれなくて、むしろ逆で。私にそう言う気持ちにさせる、隆也の存在がムカつく。




「…あのさ、」
「……なに」
「心配しなくても、断ったから」
「…心配なんかしてないし」
「そーかよ」
「…もうチャンスとか、なかったかもしれないのに、もったいない」
「いーんだよ。今は部活とお前の世話だけでいっぱいいっぱいだし」
「世話って何よ、失礼しちゃう」
「だってお前、一人でいると危ねーじゃん」








すくわれる
突き落としておいて期待させるから、やっぱムカつく。




[2008/06/25][Thanks 30,000!][帰り道/平静/告白]