「文貴、何処まで行くの?私寒いから帰りたいんだけど」
「もうちょっと」




雪が降る中で文貴は傘も差さずに、嬉しそうに雪を踏みしめて歩く。口から何かを発するたびに、白い空気が飛び出してきてそれが今どれだけ寒いのかを教えてくれる。こんな寒い日なのに、文貴はなんでこんな元気なんだろう。私は寒くて今すぐ家のこたつでぬくぬくしたいのに、文貴が繋いでいる手を離そうとしてくれないので引っ張られるがままだ。(だいたい、この手だって私は別に繋ぐつもりはなかったのに文貴が繋ぎたいって…)(私は文貴に甘いのかもしれない)




「ねえ、もう遅いし、暗くなってきたし、帰らない?」
「んーん、もうちょっと」
「…文貴、さっきからそればっか」
「そお?」




けろっとそんなことを言っている文貴を一瞬殴ってやろうかと思った。さっきから私の話はその「もうちょっと」で全部聞き流されていたというわけだから。「何処いくの?」ともう一度聴いたら「特に決めてない」と返されたので、さすがにムカついたので繋がれてない方の手で文貴の頭をガツンと殴ってやった。「いってー!!」痛がっている間に手を振りほどいて、「私帰る」今まで歩いてきた方向と逆方向を歩き出す。


ザク、ザク、雪の上を歩いていると、後ろから文貴の「!!ごめん!」という声が聞こえたけれど、私はそれを無視して歩いていた。まだ誰も雪かきをしていない、道。だけど子供が遊んだのか小さな足跡だらけで、その中に私と文貴の歩いた後も残っている。私はその足跡の上を踏み荒らした。周りを見渡すと、家々の電気がついていて、それが雪道を照らす。あたりはしんとしていて、真っ白な雪がキラキラ光って、オレンジの電気の光を反射させていて、綺麗な町並みだった。それを眺めていると後ろから追いかけてきた文貴が「ちょ、ごめんって!」と手を合わせていた。




「寒いって言ったのに」
「…うん」
「話しかけても『もうちょっと』ってばっかりで全然こっち見てくれないし、」
「…ごめん」
「……いいよ、もう怒ってない」




そう言うと、文貴は嬉しそうな顔をして私に抱きついた。文貴の体温が温かく、私を包む。「ちょっと、離れてよ、あつい」「さっき寒いって言ってたじゃんかー」文貴の不満そうな声が耳元で聞こえて、かあっと体中が火照るのがわかった。そんな私を他所に文貴は「俺、この前すごいいい景色の場所見つけて、にも見せてやりたかったんだ。喜ぶかなって。あと雪だからもっと綺麗だろーなって思って」と何やら嬉しくなることを言う。これだから私は文貴から離れられない。それから少し体を離して、もう一度手を繋いだ。文貴と話しているとたまに女の子と会話してるんじゃないかとか思っちゃうけど、繋いでる手は鍛え上げられていてマメだらけで、ちゃんと男の子なんだよね。こんな馬鹿みたいに素直で女の子みたいだけどしっかり男の文貴と一緒なら、寒くて大嫌いな冬も好きになれる気がした。今もこたつに入りたいとか帰りたいという気持ちはあるけれど、それより文貴と一緒にいたいって気持ちの方が断然大きい。真っ白でまだ誰も踏んでいない雪に新しく跡をつける。




あしあと











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[2008/04/26][Thanks 30,000!][冬/雪/町並み]