「ねー。光と馨は神様っていると思う?」


はカッターの刃先を自分の肌に向けながらそう聞いた。彼女はごく自然にその刃で自分の指手腕腿脚を傷つける。まるでお化粧するみたいに、ごくごく普通の動作で。そして彼女の指手腕腿脚からドロッと赤い赤い赤い血が溢れ出てくる。はうっとりしながらそれを見つめて、それを手にとり、それを舐める。血って鉄の味しかしなくて僕らはそんなに好まないんだけど、彼女の血だったらきっと甘い蜂蜜みたいな味がして美味しいんじゃないだろうか、なんて馬鹿なことを考える。


「「いないんじゃない?」」
「なんでー」
「本当にいたとしたら、この世界はもっと住みやすいと思うんだよね」
「そうそう。環境問題とか絶滅危機の動物とか」
「「のその癖とか、きっとどーにかなってると思うんだよね」」
「むう。癖じゃないもん、馬鹿!」


僕らがからかうようにそう言うと、は口を膨らませて拗ねる。「「じゃあはどうなのさ」」と聞き返すと、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる。は自分に聞いてほしいことを他人に聞くという奇妙な傾向がある。流石僕ら、のことを知りつくしてるよね。彼女の好きなもの、嫌いなもの、癖、趣味特技は勿論、毎週欠かさず見ているテレビや今ハマっていることもすべて。


「わたしはね、いると思うの!」
「「へえー、なんで?」」
「えっとね。神様がいなかったら今私も光も馨も存在してなかったと思うの。科学とか機械技術とか、どれだけ進歩しても、人は命を人工的には作れないから。肉体なら精子と卵子さえあれば作れるけど、命は違うものなんだって思うの。命は神様が作って、神様が空っぽの肉体に宿してるって思うの」
「じゃあなんで死体には命が宿らないの?」
「死体だって空っぽの肉体じゃん」
「んーとね、それはたぶん。ひとつの肉体に宿せる魂が一個だけだからだよ。その命が尽きたら、その肉体にはきっともう二度と宿らないんだと思う」


ふうん。まあ、らしいよね。僕らの間に座っている彼女は突然、光の手に、正確には指に触れる。そしてもう片方の手で馨の耳に触れる。彼女の手はいつも彼女の血でいっぱい、いっぱい汚れてるから、そのせいで僕らの体も一緒に汚れてしまう。でもその血でさえも僕らは気にせず、むしろ愛おしく感じる。「私ね、神様に感謝してるの」愛おしそうにその指または耳を抓んで撫でて触って引っ張って舐めて噛みついて、もう離さないとばかりに握る。あーなんかえろいな。


「この指と耳、そして私の血に逢わせてくれたこと」
「僕らじゃなくて?」
「うん。本当はね、今すぐ指や耳を切り落としたいところなんだけど。捕まっちゃったら意味がないから」
「僕らのことはどうでもいいんだ、」


ずるい。ずるいよ、。僕らは君のこと、本当に好きだと思うのに、君は俺の指と僕の耳しか好きになってくれないんだね。そうして自分の血を眺めて、自分の血に汚れた俺の指と僕の耳を見て笑顔になって、そしてまた僕らを虜にするんだね。ひどい、ひどいよ。


だけど、本当にずるくて酷いのは僕らのほう。


「僕らも、そういうことなら神様を信じて、」
「おまけに感謝までしてやってもいいかなー」


君が俺の指僕の耳を好きなことをいいことに、こうやって利用しているのだから。









 の味がする




   蜂蜜
       にて







心中







(そうして僕らは互いを利用して)(甘い時間を共有しているのだ)


[2008/04/11]
[Thanks 30,000!][神/宗教哲学/肉体パーツフェチ|フジモッティさん]