かったるい授業とHRが終わり、下校時刻になった。ああ今日も一日頑張ったな私なんて自分を慰めつつ、もうそろそろ外で待ち伏せているであろう車へと向かうべく教室を出た。ぐい、と何かにスカートの裾を引っ張られる。これは、もう見なくても誰の仕業かわかってしまう。ポケットに入っていた携帯をおもむろに取り出して、耳に押し当てる。 「――もしもし、警察ですか?」 「何故そこで警察を呼ぶのだ、!」 「そりゃあ勿論、須王くんが私のスカートの裾を掴んでいるからですよ。めくりあげるおつもりで?」 廊下に座り込んでいる須王くんに私は冷やかな視線を向けつつ言うと、須王くんは自分の手と私のスカートを交互に見つめて、それから顔を真っ赤に染め上げてパッと手を離す。(須王くんってほんと、ホスト部として女の子を相手にしている時とそうでない時のギャップが激しい)(それもどっちも素なのだからある意味すごい)私はその行動を見たあと、パンパンと軽くスカートについた埃をはたいて、「私、これから帰るところなの。須王くんは部活よね、部長さんは大変ね、がんばってね」なんてことをさらさらと言い、その場を去ろうとした。だがそれは叶わず、いつの間にか立ち上がっていた須王くんが私の両肩を掴んで、普段女の子を相手にしている須王くんからは想像ができないほど(有り得ないほど)涙目でこちらを見つめているのだ。まるで捨てられている子犬に見つめられているようで、少々良心が痛む。 「…なに、須王くん」 「何で、毎日誘っているのにホスト部へ来てくれないんだ、!」 「私が行く義理がある?というか私帰りたいんだけど」 「ある!!ホスト部へ来ることはの義務だ!!今日こそ来てもらうぞ!」 「絶対嫌。はい、交渉決裂。それではさよーなら、須王くん」 ホスト部は正直好きじゃない。まず、あの華やかな雰囲気が苦手、私にはどうも合わないのだ。(きっと私は将来ホストに通うことはないだろう)いやに甘い言葉、狙ったような態度、視線。ときめくところもある、というのはわかる。わかるけれど、あそこまで騒ぐほどだろうか。私はいまいち、最近流行りのものに疎いらしい。前にそれを須王くんに伝えたことがあるが、「苦手なものをそのまま放置しておくのはいけないな!苦手を克服すべきだ!さあ行こう今すぐ行こう!」と無理やり連れて行かれそうになったので特に意味はなさなかったのだ。とりあえず、苦手なものは苦手で私はそれを克服する気はない。それに、 好きな人が他の女の子に甘い言葉を囁いているのを見て、いったい何が楽しいのでしょうか? 私がホスト部へ行っても、楽しい時間なんか過ごせない、絶対に。たまにA組へ行くとたくさんの人に囲まれている須王くんを見かけて、それだけで嫉妬する私がいうのだ、間違いない。だから意地でもホスト部と関わるつもりはなかったのに、須王くんがこうやってB組まで毎日来るものだからそれも台無しだ。おかげでクラスの女子に「如何していらっしゃらないの?環くん、あんなに楽しみにしていらっしゃるのに」「環くんのお誘いを断るなんて何様?」「一度くらい行きませんか?きっとさんもお気に召されますわ」なんて言われる毎日だ。須王くんのせいだなんて思いつつも、恨む気にも憎む気にもなれず(これぞ、惚れた弱み)、ずるずると引きずってきた結果が、これだ。最初のころはキャーキャー騒がれていたのに、今や私と須王くんが話すことを誰も気にしていない。見事に素通り。 肩に置かれている須王くんの手を振り払おうとしたら、意外にもガシッとしっかり掴まれていてそうすることができない。私と須王くんは自然と向き合う形になっていることに、私はようやく気がついて、紫色の瞳に見つめられると動くことができなくなる。胸が苦しくなるのを必死に隠して、「だいたいなんで、そうまでして私を呼びたいの?」と喉から声を絞り出した。須王くんは間抜け顔から一変させて、キラキラ笑顔で言うのである。 「が好きだからに決まっているだろう!」 え、ちょっと、須王くん? 「おや、顔が赤いぞ?どうかしたのか?」 「ど、どうもこうも…!も、ぜ、ぜったいいかない!!」 私の心情なんて露知らず的外れなことを言う須王くんに、ガーンなんて効果音が似合うほどショックを受けている須王くんに、私はこれからも振り回されること間違いなし。甘くて色気のある言葉にも惑わされてしまいそうな私だけれど、こういう直球な言葉はもっと弱い。いや、私はどちらにしても須王くんにだったらこうやって振り回されてしまって、それを楽しんでしまうのだろう。 マリオネット が廻る
(悲鳴が聞こえてようやく思い出した、此処は廊下だ)(明日色々言われるかなぁ) [2008/03/22][Thanks 30,000!][下校/嫉妬/告白] |