冷たい風がひゅうと音をたてて私と孝介の間を突き抜ける。先ほどから、どんどん、どんどん孝介と私の距離はひきはがされてばかりだ。(孝介は、私との距離がひらいていることに気付かない)歩幅の違いか、歩く速さの違いか。歩幅とかスピードとかは正直、どうでもいい。ただ、私は孝介の隣で歩きたくて、足を速めた。すると、足が縺れてあっという間に地面に膝から突っ込んでしまった。いたた、何にもないところで転ぶなんて、私馬鹿じゃないの。ていうか、ついてない。これじゃあまた孝介と距離ができちゃうなぁ。膝に痛みを感じながら起き上がると、私の上に影が出来ていた。 「馬鹿じゃねーの?」 「な、孝介が歩くの速いからでしょ!」 「だから馬鹿だっつってんだろ」 孝介は手を差し出している。え、掴まれ、ってこと?私が戸惑っていると「早くしろよ」と言ってくる。それから素直に孝介の手に掴まって、立ち上がる。パンパン、とスカートについた土を払っている途中で「行くぞ」と孝介は勝手に歩きだした。手はつながれたままで、引っ張られるように私は歩く。あれ、さっきよりも歩くスピードが、遅い?「速かったんなら、ちゃんと言えよ」私の少し前を歩く孝介の頬が、少し赤に染まっていたのがちらりと見えた。(たぶん、今私も負けないくらい赤いのだとも思うけど)こんな、ぶっきらぼうな優しさがうれしくて、つい笑ってしまった。 |
シルフィードのまじない
冷たい風がひゅうと音をたてて俺との周りを突き抜ける。それは確かに寒くて冷たい風なのに、それすらも感じなくなってしまっているほど熱い。手を中心にして、人間ホッカイロなんて言えるくらいの熱さ、…いやたぶんもっと熱い。もしかして体温200℃くらいまでいってるんじゃないだろうかと疑ってしまうくらいに。…あほか、俺今熱さのせいでまともな思考が出来なくなってる、やべー。チラッと一歩後ろを歩くを見ると、はにへらと間抜けな笑顔を見せた。頬はほんのり赤くなっていて、しかもチラッと見ただけなのに目が合ったということは、向こうもこっちを見ていたということじゃないのか。うわ、なんか俺今すっげー恥ずかしい。 「これで雪でも降ればロマンチックだったよね」 こっちの気も知らないで、はぼうっと空を見上げた。「寒いから降んなくていーよ」と嘘の返事をする。今現在寒くないのだから、別に今更雪が降ったところでこの熱さが如何にかなるものでもない。そしたらは「うーん、でも、私今すごく熱い、…し」と。…それ聞いて、ますますこちらの体温も上がった。さっきまで200℃と推定されていた体温が、1℃、また1℃、さらに1℃と上がっていく。今まで、手を繋ぐなんて行為でこれほどまでに緊張したことがあったか。(てか、俺ってこんな、手を繋ぐだけで動揺してしまうほどかっこ悪い男だった、のか)この顔の熱さを知られたくなくて、のほうへと向けていた顔を背けてさらに足を速めたら、それに引っ張られるようにもついてくる。にへらと、または笑っていて。緊張するけど、こうやって歩いている時間は心地いい。緊張するのも、動揺するのも、熱くなるのもこいつとならいいと思って、俺より一回り小さな手を握り締めた。 [2008/03/15][Thanks 30,000!][風/手/笑顔|弥殊さん] |