、それイメチェン?」
「違うよ。眼鏡、割っちゃって…」
「周り見えないだろー?大丈夫?」
「平気平気」


ちょっと周りがボヤけてはっきり見えないけど、一週間くらい我慢出来る。席は生憎一番後ろだけど(眼鏡つけてたからすごい見えてたし、席替えした時は後ろでラッキー!って思ったのにこんなところで仇となるとは)、授業のノートなら友達に見せてもらえばいいし、いざとなったら先生の言ってることを全部写すって手もある。話しかけられても一瞬だとそれが誰だかわからなくても、なんとか声で判別できないことはないし。(だってほら、現に今話している相手は水谷だってすぐわかった)(…水谷については声以外にもちょっと色々あるからだけど)


さ、今度からコンタクトにしなよ。かわいーし」
「水谷、眼科行った方がいいよ」
「ええ〜、なんで!」


だって私自分の顔嫌いだもん、不細工で可愛げなくて。赤い縁の眼鏡は少しでもそれを隠してくれて、結構気に入っていたのだ。今それがなくなって、少し気に入らない。本来ならば、赤い縁に収められている視界が狭いと感じるはずなのだけれど、私はもうあの視界に慣れてしまっている。私はあの窮屈で制限された視界が割りと好きなのだ。だけど今は、縁取られていた赤がなくなって、視界は広く感じられて少し気持ち悪い。前の方で黒板にラクガキしているであろう女子たち、ふざけあう男子だち、先生がもう教室に入って準備をしているであろう様子。全てがボヤけて、人種こそは判別できてもそれが誰なのかは判らない。水谷は私の前の席に座って、私の顔を覗き込む。この距離なら眼鏡をしようとしてまいとはっきり見えてしまって、あまりの顔の近さに私は思わず後ずさった。


「かわいいのになぁ、勿体ない」
「…お世辞はいらないって」


(水谷がお世辞を言えるような頭を持ってるとは思えないけど)如何でもいいけど、近い。後ずさってもさらに顔を近づけて覗き込んでくる顔が少し憎たらしい。可愛さ余って憎さ百倍というやつだ、たぶん。水谷は私の発言に拗ねて、口を尖らせる。


「お世辞じゃないって!いっつもさー、顔隠してて勿体ないなーって思ってたんだよね。かわいいのに」
「あ、あんまり、かわいいって連呼しないでよ」
「赤くなってるー!かわいい」


かわいいって言うなって言ったのに、水谷はそれを聞きもしないで眼を細めてそれを繰り返す。こんなこと、一週間も言われ続けていたら私の頭がどうにかなっちゃいそう、耐えられない。家に帰ったら、即急で作ってもらえるよう電話でもしよう。あの赤渕で彩って、制限された世界でなら動揺することなんて、きっとない!(でも、もう手遅れな気がする)(今だって、心臓はバクバクで顔があの赤渕のように真っ赤なのだから!)











もう視界は君でいっぱいで、赤い縁はそれを狭める窮屈な素材でしかなくなったのだ。




[2008/03/08]