風呂からあがって部屋に戻ったら携帯が点滅していた。開いてみたら新着メールが一件来ていて、送信者ははあまりメールしないものだから、珍しいなぁとか嬉しいなぁなんて思いながらメールを開くと、とんでもない中身に思わずパタンと携帯を閉じる。傍にあったコートを取って部屋を飛び出す。家を出ると其処には鼻を赤くしているが立っていた。服装はTシャツに長ズボンとかなりの薄手である。のあほ!




「っ馬鹿!」
「あいたっ!行き成り何すんの!?」
「何度も言ってるじゃん、夜遅くに外に出るなって!最近この辺不審者がいるって言うし…、そんなんじゃいつ襲われたって文句言えないよ!!ちゃんとそういうこと意識しろよ!」
「うう、ごめんなさい…」




チョップされた頭を撫でながら申し訳なさそうに頭を下げるけど、本当に反省してるのかな。だいたいいつもそんな風に謝るけどは結局同じことを繰り返す。それがいつも俺を心配させてるの、なんで俺の言う「危険」を理解してくれないんだろう。


「一緒に帰ろう」と誘われたことがあった。最初は嬉しくて頷いてしまったけれど、よくよく考えたら夜遅くなるし危ないじゃんか、ということで後から謝って一緒に帰るという約束はなくなった。けれど、それでもは俺の言うことも聞かないで待ってるし、しかも送ろうかって言ったら「練習で疲れてるんでしょ。だったら、早く家に帰って早く休んで」なんて言うし。一人で家に帰ったって、ちゃんとが家についてるか心配で眠れないよ。もうちょっと女って意識、持って欲しいよ。こんな可愛い子、いつ襲われたって可笑しくないんだよ。「だって…」そうだ、いつだってこの言葉に騙されて、俺は何度だって許してしまうんだ。が悪い。「だって」の続きはいつだって俺を惑わす魔性の言葉で、それを聞くとどうしようもなく可愛く見えて許してしまうんだから。(俺、どんだけベタ惚れなんだろ…)




「だって、文貴に逢いたかったんだもん」




そりゃあ、俺だって逢いたいって思うよ、思わないわけないじゃん。明日だって明後日だって逢えるのに、なんだか無性に逢いたくなる時くらいある。だけど、そんな風に逢いに来られちゃあ俺が我慢してるの、馬鹿みたいじゃん。壊れた水道管から水が漏れるように、俺は一気に言いたいことを吐き散らす。馬鹿、ほんとに馬鹿。頭に手をそっと乗せてそのまま抱き寄せると、髪の毛からふわっとシャンプーの香りがした。触れた肌は瑞々しい。は無邪気に笑って「文貴、体暖かいね」なんて言ってさらに体を摺り寄せる。薄着で、夜で、俺んちの真ん前だというのにそんなことを天然でやってのけるが、(馬鹿、じゃないの)(危険っていうのは、俺のことも含めているんだよ?)




「…が冷たいんだよ、こんなに冷やしちゃってさ。ほんとに馬鹿」
「…文貴にあんまり馬鹿馬鹿言われたくない」
「こっちは本気で言ってるのに…」
「…ごめんね、文貴」
「もういいよ、…帰ろ、家まで送るから」
「うん」




手を当たり前のように繋いで、夜の道を二人で歩いた。本当はこれ以上一緒にいると危ない気もしたけど、一人に出来ないし(一人にするほうが心配でたまらないし)、もうちょっと一緒にいたいから我慢をすることに決めた。そんな俺の心情なんて知らない彼女は嬉しそうに笑うのである。








(ねえ文貴、寒いー)(…ほら、コート貸すから!!)(ありがと、えへへ…文貴のぬくもりが残ってる)(なにその恥ずかしい台詞!)




[2008/02/29][Thanks 30,000!][夜道/天然/不審者|唯さん]