ボリボリ。クッキーを口に運んで、齧りとる。それからもごもごと口の中で噛んで、飲み込んだら残りのかけらをもう一度口まで持っていく。ひとつ、食べ終わると袋に手をのばしてもう一つ。私は手に持っている雑誌から目を離して孝介をじとーと見ていた。私の視線に気づくと孝介はにやりと笑って、クッキーが入っている袋を差し出して「食う?」と聞く。こいつ、絶対わざとだ。私がこうして嫉妬していることを知っていて、あえてそうやって遊んでいる。それにむかついて「いらない」と言って、視線を雑誌に戻した。それでも気になってふと顔をあげると、孝介と目が合う。急いで視線を雑誌に戻して、もう一度顔をあげるとまた孝介が。先ほどからその繰り返し。私は孝介に反抗しているつもりだけれど、こういう行動を起こしているうちにどんどん墓穴のドツボへとはまっていくんだ。それが悔しくて意地を張って冷静を装うけれど、私の冷静さがわざとであることを知っている。




「そういや、さ」




ボリボリとクッキーを食べながら孝介がふと声を漏らした。雑誌で顔を隠しつつ少しだけ顔を見せて、孝介を睨みつけると、孝介は気にした風もなくけろりと言葉を言ってのける。「からはないわけ?チョコ」




「誰が孝介なんかにあげるか。このドエス、チビ、オトコオンナ」
「てめ、ふざけんな」
「ふーんだ」




私が悪口を言ったことで、やっと孝介の心が動いた。「チビ」と「可愛い」は孝介にとっては禁句ワード。気にしているもんだから。


何が楽しくて彼氏が他の女の子からもらったチョコを食べる姿を見なくてはならないのだろうか。それが本命にしても義理にしても。私だって貰うなとか食うなとかは言わないけど(だって同じ女の子だから、好きな人に渡したいという気持ちはわかる)、それをわざわざ私の目の前で食べることないじゃない。性格が悪い。


クッキーを食べ終わった孝介は、それが入っていた袋を丸めてゴミ箱に捨てる。クッキーを食べ終わっても、まだ孝介が貰ったお菓子は2,3個ほどあるから、私はてっきりそっちに手を出すのかと思ってため息を吐いてからもう一度雑誌を見る。先ほどから見ているそれは私の好きな俳優さんの特集で質問と答えが文字になってぎっしり書いてあるのだが、孝介の様子ばかりが気になって全く頭に入ってこない。ふと、雑誌が影に埋もれて字が読みにくくなった。顔をあげると孝介が私の後ろにあるベッドに両手を置いて私を見下ろしていた。ふっと笑ったかと思うと、唇を奪われる。




「……っにすんの!?」
がくれないから、強行手段に出ようかと」
「はあ?」
「大人しくチョコを渡すのと、俺に食われるのどっちがいい?」
「くわ、…!?」
「俺としては後者がいいんだけど」




血の気が引いていく。「わ、わかったチョコあげる!!!」と言って私の隣に置いてある鞄に手をかけようとしたが、それは孝介の手によって阻まれた。「何すんの、チョコ出せないでしょ」と言うと「さっき断られたし、チビとかオトコオンナとか言われたし?」と言い返された。こいつ、根に持ってる。私に選択肢を与えない、というより選択肢は与えるが選んだところで意味はないというところだろう。孝介はもう一度身を乗り出して、私に口付けた。……ドエスめ。






ビター

キャラメル




ピエロ




[2008/02/17]