「シロちゃん、行っちゃうんだぁ」


眉を情けなくハの字に下げて、こっちが行くのを躊躇ってしまいそうな寂しい顔をして、は俺を見下ろした。こうなるのが判っていたからコイツには黙っておこうと思っていたのに。んな顔されたら、捨てられた犬を無視するみたいで気分が悪いだろ。


「黙って行っちゃうなんてさー、シロちゃん水くさいよばあか」
「うっせ」
「シロちゃん冷たーい。ちゃん泣いちゃうしくしく」
「うぜってー泣き真似すんな、あほ


シロちゃんは今日で行っちゃうのに、相変わらず冷めた態度だった。今度は何時会えるかわからないのに、わたしはどんな風にお別れを言えばいいのかまだ判らない。シロちゃんのばぁか。行き成り、死神になるとか言い出すから別れの言葉を考える暇さえなかったじゃないか。


「…桃ちゃん、最近来ないよね」
「そーだな」
「シロちゃんも、そんな風に来なくなっちゃうのかなぁ?」
「さーな。そもそも休みに帰ってくるかもわかんねーし」
「……そっか、そうだよね」


必死に笑顔を作っているのが目に見えて、ばっかじゃねーのと悪態を吐いた。は「…シロちゃんは寂しくないの?」と言う。何を言ってるんだこの馬鹿は。言わなくては伝わらないなんてそんな薄っぺらい関係でもないだろ、そんなこともわかんなくなるくらい、俺が何処かに行くのが嫌なのか?誰かが離れていくことが寂しいのか?




「…桃ちゃんも行っちゃって、なのにシロちゃんまで、…みんないなくなっちゃう」




今別れるのは永遠なのではない。そんなことくらいわかっているはずだけれど、涙が出そうになった。わたしの周りにいた人がどんどん、いなくなっていく。みんなどこかに、いっちゃう。少しずつ、何かが変わっていく。変わっていくことは怖い、そして嫌だ。わたしは、皆で一緒に遊んだあの頃に戻りたいくらい。でも変わらずにはいられなくて、みんないつのまにか何処かを目指して歩き始めている。桃ちゃんも、シロちゃんも、きっとわたしでさえも。それが寂しい。そう思ってしまうことがいちばん、心細い。


のガキ。んなんじゃお前、いつまで経っても自立できねーよ」
「出来なくてもいいもん。…シロちゃんがいてくれるんなら」
「…だからガキだっつってんだろ」


涙目になって睨むの頬に手を伸ばして、両手で思い切り引っ張ってやった。「いた、いたいひゃい!!」元々涙目だったせいかそれとも痛さのせいかボロボロ涙を流している。まぬけ面で、元々不細工だったのがもっと不細工なってんじゃねーか。今度会う時までにその不細工なのなんとかしとけ。っつったら、はさっきまでの顔が嘘のように笑って、「じゃあシロちゃんはわたしより背が高くなっててね」と軽口を叩いた。「…喧嘩売ってんのか」「めっそうもない!」台詞は下手に出ているのに、顔がいつまでも笑っているから少しそれが憎たらしく、でもそれがいつもどおりで。


「じゃーな」
「……うん、またね!」


シロちゃんはいつも何処か不器用で、でも何処か優しいのだ。シロちゃんのばあか、それでもちゃんと言葉で言ってくれなきゃ寂しいでしょ。わたしは涙を拭って、思い切り手を振った。シロちゃんはこっちに振り返らなかったけれど、わたしが今どうしているかくらいわかっていると思う。シロちゃん、シロちゃん、






「行ってらっしゃい!」




残された



のかたち




[2008/01/15][title by インスタントカフェ]