「わたし、双子ってこの世の宝だと思うの。鏡のようなシンメトリー、他の兄弟ではありえないテレパシー、家族以上に感じる絆!ただの兄弟だと同じ親の血が流れていてもDNAって違うものでしょう?でも双子は違うの、DNAですら同じで、見た目、性格、好みなんてものもほぼ同じに等しいの。それは本当に鏡を見ているようで、だけど鏡じゃない。酷似する美しさは物ではいくらだって作れるけれど、人間では難しいのよ。だって動物実験なら兎も角人間には法律というルールで縛られているんだもの、クローン実験なんて出来ない、おまけに動物のクローン実験だって似たような動物が生まれるわけじゃないしね。そんなほぼ不可能な条件の中で、双子はその不可能を成し遂げているの!同じ双子と言っても二卵性双生児なんて私は嫌よ、だってただの兄弟と変わらないじゃない。しかもほとんどの場合で薬で無理矢理卵子を生み出して出来た人工的な双子なんでしょう、そんなものにロマンは感じられないわ。三つ子や五つ子なんてものも存在するけれど…それも却下ね。だってシンメトリーというのは、同じようなものが二つあるからこその言葉よ、左右対称って意味なんだから。同じようなものが三つも四つも五つもあったら、それはただよけいなものでしかないわ、工場かなんかで大量生産されてる商品とまるで同じよ。二人だからこそ左右対称の鏡みたいに出来上がるの!だからその点を全てクリアしているあなたたちはとっても素敵!」 「「前フリが其処まで長くて最終的には素敵の一言ですか」」 「うふふ、声も息も合ってて、美しきかな双子たちね」 という人物は根っからの双子好きだ。双子好きと言っても僕らが好きなんじゃなくて、一卵性双生児という人種が好きなのだ。何故一卵性双生児限定かというと、それはまあ先ほど先輩が言った通りなので省略するとしよう。とりあえずそんな双子フェチな先輩に捕まった学院内唯一の双子の僕ら常陸院ブラザーズは非常に困っている。部活へ向かおうとしたら彼女に捕まりジロジロと変態みたいな目線で僕らを撫で回し、そして最終的にはあのマシンガントーク。あんなに喋っておいてまだ喋り足りないらしく、僕らを掴んでいる腕を一向に離してくれる気配がない。 「「僕ら部活に行きたいんだけど」」 「うーん、でもわたしはもうちょっとあなたたちを堪能したいのよね」 「だったらホスト部くればいいじゃん」 「そしたら僕らだって嫌がらず相手してあげますよ」 「わたし、ホスト部の雰囲気って好きじゃないの」 好きじゃないって!まあそりゃあ学院内には色んな人間が混雑しているわけだからそういう人間だっていたって別に不思議じゃない。だけどそんな理由で僕らを此処に留まらせて、最終的に殿に怒られるのは僕らなんだ。(まあ殿が怒ったってなんの効果もないけど)そりゃあ、此処で先輩のマシンガントークを聞くのはサボりの口実になるけど、部活サボってまでこんなマシンガントークを聞こうとなんて思わない、第一聞いているだけで疲れる。部活で女の子の相手をしている時のほうがよっぽど楽しい。僕らは溜息を吐いて、一つ彼女に提案をした。 「先輩、ゲームしませんか?」 「ゲーム?」 「そ、どっちが光くんでしょうかゲーム」 先輩は少し考えてから、いいわ乗りましょうと言った。「「僕らが勝ったら解放してくださいね」」「じゃあわたしが勝ったら今日一日あなたたちはわたしのもの」まあ、勝負なんて眼に見えているんだけど。だってこのどっちが光くんでしょうかゲームはハルヒ以外は誰も本当の意味で勝利したことがない。殿なんか最終的には勘だし、お客の姫たちはたとえ外れてても「「あったりー♪」」と言えば信じるようなもんだし。だからこの勝負だって、当たってても外れててもはずれといえば僕らの勝ちはわかっているんだ。幸い今日は髪型も服装も全く同じ、それでいてシンメトリーは崩していない。おまけに今日は彼女の前でお互いの名前を呼んでいないのだ。「「さ、先輩当てて。どっちが光くんでし」」「こっち」……え? 「だから、こっち」 「「ぶっぶーはずれー」」 「外れてなんかないわよ。こっちだってねそれなりにあなたたちのこと見てるの、わたしが間違えるはずがないわ。いくら双子だってね、生きてれば考えてることとか歩んでる道とか微妙にズレるもんなの。そうするとね、不思議と勝手に顔やら性格やらに少しずつズレが起きちゃうものなのよ。あなたたちはわたしが今まで見た双子の中で一番綺麗なシンメトリーで二人だけの世界作ってて、見分けるなんてちょっとやそっとじゃ出来ないくらいそっくりだけど、やっぱり微妙に違うわ。だってほとんど同じ道を歩んでいたって、全く同じわけがないでしょ?お互いの気持ちがよくわかって言葉をハモらせることが出来ても、考え方だってちょっとは違ったりするものよ。シンメトリーという言葉は一見完璧な左右対称と言ってるようだけれど、わたしの言うシンメトリーはそんなもんじゃない。だってこの世に同じものなんて二つとないんだから。大量生産されてる製品だってね、一個一個は全くの別物、いくら似てても違うものなの。わたしはね、パッと見完璧なシンメトリーの中で実は不完全な似ても似つかないものを探すのも大好きなのよ、間違い探しみたいで。だって完璧すぎるものって気持ち悪いじゃない?不完全だからこそ醜く一番綺麗なの。だからあなたたちも、完璧なシンメトリーには及ばないのよ」 「「……何それ、それって僕らを当てたことになるわけ?」」 「なら…光の方が多少男らしくて馨は若干優しそう、だから光はこっち。これでどう?ちゃんと二人を見分けられた理由でしょ。あんまりわたしを舐めないでよね」 先輩の言った言葉に僕らは唖然。ただの双子フェチで僕らを同一視しているだけの人間だと思っていた。だけど、彼女は僕らを同一視しつつ別個の人間としてみている。ちゃんとした違いなんだか曖昧なんだかよくわからない答えで、僕らを圧倒させるのである。僕らの知らないところで僕らのことを遠くからじっと見つめる先輩は、所詮はただの傍観者。だけどその傍観体質が僕らの全てを見抜いてしまう。僕らの少しずつズレていく成長やら、関係やらをじっと見続ける、ただそれだけ。絶対に手を出したりなんかしない。(でももう遅いね)(だって君は、僕らを見分けてしまった時点で手を出してしまったのだから)「さあ、ゲームはわたしの勝ちね。今日はホスト部なんかに行かないでたっぷりわたしに双子の魅力を堪能させて頂戴。まずは、…そうね、じゃあ手始めに片方が怪我したときもう片方も痛みを感じるって本当?」嬉しそうな顔をして僕らを求める彼女を見て、僕らはやれやれと肩をすくめた。ごめん殿、しばらくは部活に出るのは無理そうだ。 |
傍観者
エ ゴ イ ス ト