目が合うと文貴くんはへにゃりといつもの笑みを見せてくれた。だけどわたしはそれに対して苦笑いしか返せず、それから目の前のケーキに目を落とす。…へたこいた。 「ね、ね。ケーキ作ってよ!」 そう言ったのは文貴くんのほうだった。(お正月にケーキというのは変な感じなのだがそれはまあ、誕生日なのでよしとしておこう)わたしは普段料理なんかしないものだから上手く作れるか不安だったので最初は断ったのだが、プレゼントはケーキがいい!としきりに言い続ける文貴くんに迫力負けしてしまった。といってもやっぱりこういうことには自信がない。なのでスポンジは作らず市販のものにし、文貴くんの好きな生クリームだけでも自分で作ることにした。(せめて、もうちょっと早く誕生日を知っていれば、練習したのに)混ぜるだけといっても結構根気のいる作業である。腕が疲れて少し休んでいると元に戻っていたり、冬なのにも関わらずストーブがつけられなくて寒かったり。そんなこんなで出来上がった生クリームをスポンジに塗りつけると、これも案外難しい。クリームが不平等に塗られていく。そうして出来上がったケーキは、なんとも無様な格好のものであった。 「食べていい?」 「う、うん…」 本人は毎回恒例の「うまそう!」と言ってから一口、ケーキを口へと運んだ。こんなクリームが均等につけられていない不恰好なケーキ、見た目はお世辞にも「うまそう」には見えないのに、毎回恒例とは言えちゃんと「うまそう」をやってくれることに嬉しさ半分申し訳なさ半分。それから、ぱくっとそのケーキを食べた文貴くんはにっこりと笑っていた表情をやめて、もぐもぐと食べつつ眉を寄せて難しい顔になっていた。 「…味、ない」 「え?」 「生クリームの味がない」 うそっ!?急いで自分のケーキにフォークを刺して自分の口へと運んだら、スポンジの味しかしなかった。あ、あれ、生クリームは?確かについているはずの生クリームは舌の上で感触がするだけで。顔から一気に血が引いていくのがわかった。…砂糖、入れ忘れたんだ。混ぜてる時に何か忘れてるなぁとは思ってたけど。文貴くんは急いで「あ、でもスポンジは美味しいよ」と付け足すけれど、「市販だもん」と返すと黙り込んでしまった。それから私は失敗した恥ずかしさからもうそれを食べる気力すらも失せてしまった。逆に文貴くんは生クリームの味がしないケーキを食べようとフォークを刺している。 「ごめんね、無理して食べなくてもいいよ」 「…いいって。俺全部食うよ、不味くないし」 「でも、美味しくないでしょ?」 「んー…」 わたしがどんなに言っても、そのケーキを奪い取ろうとしても、文貴くんはそれを取り返してまたフォークを差し込む。もぐもぐと食べながら「だって俺のためのもんでしょ」とへにゃりと笑う。うっ…確かに、そうだけど。頼まれたから作ったっていうのもあるけど、喜んでほしかったというのもある。(でもその結果が失敗じゃあ意味がないんだ)文貴くんはあっと言う間にそのケーキを平らげてしまった。…ああ。もう取り戻せない。わたしが溜息を吐くと、文貴くんはふとこっちを見た。(あ、ほっぺにクリームついてる) 「あのさ、俺はのケーキが食べたかったんだよ」 「…?うん」 「それで、えーっと。…だから、が作ったものだったら失敗でもよかったっていうか、」 「……文貴くん、喧嘩売ってる?」 「そーじゃなくて!その、だから。…が俺の我侭聞いて一生懸命作ってくれたことが嬉しかったの!だから味なんか如何でもいいんだよ!」 文貴くんは必死に弁解するけれど、頬に生クリームをつけたまま言われてもなんの迫力もないというか。それと味は如何でもいいって、作った側のわたしとしてはショックなんだけどな。すると文貴くんは「あ、いや別に如何でもいいっていうのは不味いってわけじゃなくて、えっと」とさらにつたない言葉で弁解してくる。そんな文貴くんが可愛く見えて、へにゃりと笑った。 「文貴くん、生クリームついてるよ」 「へ、…は、ははやくいってよ!かっこつかないじゃん!」 わたしが指摘すると文貴くんは顔を真っ赤にさせて急いで指でクリームを拭き取り去った。あのね、文貴くん。わたしにとってはやっぱり味っていうのは如何でもいいものなんかじゃないの。だけど、今度は練習するから、そしたらまた来年作るから。そしたらまたこうやって食べてくれるかな。わたしがそう聞いたら文貴くんは嬉しそうに笑って、わたしを引き寄せて、「あったりまえじゃん!」と言いながら抱き締める。 「文貴くん、誕生日おめでとう!」 君のハートに
ブラインドタッチ [2008/01/04][title by インスタントカフェ][HappyBirthday!!] |